庭のあるシェアハウス

名古屋市内に建つシェアハウス。南側に建てられた既存棟と同じ施主による2棟目。1棟目はシェアハウスのプロトタイプが提案されたが、今回は場所性を意識した。シェアハウスはパブリックとプライベートが明確に分かれていることが多い。街というパブリック空間に対しては閉じ、内側にのみ濃厚なコミュニティ空間がある。その内部のコミュニティ空間は人が集まる共有部と、ひとりになれる閉じた個室で構成される。しかし、パブリック空間にも個の活動が生まれ、プライベート空間にもパブリックが感じられる場がある方が、生活の自由さを生むと考えた。 ■生活感のない大きな箱をつくると街に圧迫感を与え、シェアハウスの生活が分からないことが地域住民を不安にする。そこで個室を雁行配置し、小さな庭を周囲に分散させ、個人の生活が街と少しだけ接点を持つようにしている。分割したボリュームには周辺住宅と同じような勾配を付け、小さな住宅が集合して建っているような佇まいで街のスケール感を連続させた。 ■1棟目の裏庭を2棟目で挟み込み、双方の中庭としている。積極的に使われていなかった裏庭に対して、平面に凹凸をつけ、共有する畑を設け、1棟目の住人も浴室を使えるようにして程よい距離感を保ち、自然な交流が生まれるように考えた。 ■共用部における個人の居場所をつくった。分割された切妻屋根をそのまま内部で勾配天井とし、高さを活かした「開放的な共用部」と、低く抑えられた「落ち着きのある個室」をつくり出した。その両方を繋ぐ中間的な領域に、他人の存在を感じながら一人でいられる場所や、共用部に個人の所有物が溢れることを促す装置が必要と考えた。 職住が分離し、応接間が消えた現代において、住宅はプライベート空間のみになりつつあるが、パブリックとプライベートを内包するシェアハウスは街に開ける可能性がある。

クレジット

  • 設計
    諸江一紀建築設計事務所+鈴木崇真建築設計事務所
  • 担当者
    諸江一紀、鈴木崇真
  • 施工
    株式会社前田工務店、キッチン:株式会社寿々源、造園:植真 太田造園
  • 構造設計
    株式会社ハシゴタカ建築設計事務所・ladderup architects一級建築士事務所
  • 撮影
    ToLoLo studio

データ