アーチと2つの庭の異国情緒が広がる家

ビルディングタイプ
戸建住宅
7
236
日本 大阪府

PROJECT MEMBER

DATA

CREDIT

  • 設計
    arbol
  • 担当者
    堤庸策、梅崎裕子(アトリエM.A.R.)
  • 施工
    岩鶴工務店
  • 撮影
    下村康典

敷地は大阪府東大阪市の中心部から少し離れた寺を中心とする場所で、古い民家や商家が多く残されている地域でもある。今回の敷地は埋蔵文化財包蔵地に該当し、日本の長屋的な住宅が密集している地域であった。 当初施主の要望は明確で、「シンガポールのプラナカン建築の風景」といった異国情緒を住宅に求められており、間取りやファサードにもしっかりとしたイメージを持たれていた。そのため、設計当初はプラナカン建築の要素を取り入れ、施主のイメージするような案からアプローチしていたが、どうも施主が求められている本質との乖離を感じはじめた。 そこでコンセプトとしては、日本の長屋に、プラナカン建築のピロティのイメージを取り込む仕掛けを考えた。プラナカン建築は、日本の長屋のようにお互いに隣地の建物が寄り添いながら、建物前面のポーチ空間と袖壁のアーチが隣地同士で連続することによって、一つのアーケードとしての景観を作っている。 このイメージで、建物をエントランスから建物奥につれて天井高が高くなるように計画、一部を2階建てとして建物の立体感を持たせた。前面道路から、エントランス、前庭、LDK、中庭、ユーティリティー、寝室といったように段階的にゾーニングするとともに、またそれらを隔てる欄間部分をアーチ状にした。 そのアーチは大きさをリズムよく変化させながら、建物奥に向かってレイヤーとして重なり陰影が生まれることでさらなる奥行き感が生まれた。 室内でもプラナカン建築のピロティをくぐり抜けていくような期待感や、外部との繋がりを感じられる空間とし、アーチの一部を切り取るようなデザインにすることで、視覚的な工夫をし拡がり感を作り出している。 外部との空間構成については、長屋のように建ぺい率いっぱいに構えながら、その中に前庭や中庭を介在させた。それによってパブリックな外部空間とプライベートな内部空間をやわらかくつなぎ、空を取り込む縦方向に抜ける開放感があることで、季節や時間によってうつりかわる自然光を感じ、豊かな拡がりや動きを実現した。また、ファサードや中庭を構成する外壁は、キャンチレバーによる足元の隙間からの風も感じられる。 造園については、濃い緑や、おおきめの葉など、南洋植物のイメージで計画することによって、建物のコンセプトと調和し、季節ごとに彩りや変化が楽しめる暮らしのアクセントとしている。 室内空調・温熱環境については、人も建築も健康であってほしいと考えていることから、壁や天井を自然素材由来の左官風仕上げとし、調質効果を高め、素材感を楽しめる計画とするとともに、断熱材は木造用の吹き付け断熱材とし、サッシは複層ガラス(一部真空ガラスを採用)として断熱性を高めた。加えて、外気の不純物を除去するフィルターを介した第2種換気を採用し、住宅の隅々までクリーンな空気の循環が生まれるよう計画した。 今回の計画は築年数の経つ隣接する長屋から切り取り建て替えた。異国の建築要素を再解釈したアーチや、前庭と中庭を介在させることによって新たな息吹をもたらせた。光や風、季節のうつろいなど日々の変化もしっかりと感じられる住宅である。シンプルながらも異国情緒のエッセンスが入った日常を心地よく過ごされ豊かな心が育まれることを願う。

物件所在地

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