裏路地の三層

奄美大島は離島とはいえ市街地は鹿児島本土の大半より地価も高く、裏路地の街区は小さく区画されており、その街区の中に住宅が高密度に建ち並んでいる。そのため自然光は入りにくく、路地空間も圧迫されてしまっている。 計画地はそんな裏路地にある旗竿敷地である。 隣地境界ぎりぎりまで建物に囲まれており、光を確保しつつ窮屈に感じない工夫が求められた。そこで、個室を単独で閉じないルールを設定した。 人の集まることの多いリビングを道路に面して配置し、路地まで賑わいの広がる来客の空間として位置づけ、子供室・寝室は2Fに配置し、2層分の高さを設けたボリュームのハイサイドライトから光を取り込む計画とした。子供部屋同士は2層分の高さの上層部分で一体に繋がり、お互いの空気感が緩やかにつながっている。主寝室はバルコニーを介して路地と接続し、視覚的な広がりをもたせている。 ボリュームの構成を路地から奥は3層、路地に近い部分は1層と、ボックスが連なるような段差で構成し、路地に対する圧迫感を軽減しつつ人を迎え入れるような形式としている。 3層のボリュームを構造的に成立させるため、2階中空には桁を設けている。 桁は断面を絞りピッチを細かくすることで、ルーバーに近い性質のオブジェクトとした。 仮想天井というだけでなく、棚にもなり、ぶら下がることも、吊り下げることもできる、漠然としたポテンシャルとして、住宅の一部をクライアントに委ねる形で引渡している。 またそのクライアントへ委ねるという方向性は耐力壁合板を収納部やリビングに集中的に配置することにも引き継がれ、収納内の造作棚やその他家具造作は建物全体でも最小限に抑えられている。 DIYがライフワークであるクライアントが住みながら住宅をカスタマイズしていくための器として完成させたこの住宅は、今も住み手の手によって更新され続けていることと思う。

クレジット

  • 設計
    小野良輔建築設計事務所
  • 担当者
    小野良輔
  • 施工
    アオイ・ホーム
  • 構造設計
    円酒構造設計
  • 撮影
    石井紀久

データ