島酒場黒潮

奄美大島の繁華街・屋仁川通りの裏通りに位置する郷土料理居酒屋。 スケルトンの店舗が元々持っている『素材感』を新たな仕上げで隠してしまうことには抵抗がある。 全てクリアランスして綺麗にしてしまうくらいならいっそ、スケルトンに残置された床タイルや壁のクラックも新たな仕上げに影響を与えるようなものにできないかと考えた。 スケルトンの床の一部には50mm角の正方形のタイルが残されていた。それを手がかりに、和食居酒屋の意匠と掛け合わせていくことにした。 正方形タイル目地をモルタルでフロッタージュし、格子柄を浮かび上がらせた。それに呼応するように、天井・外壁・内壁の意匠を決定していくプロセスを取った。 その中で設定したルールは、①既存の素材を完全に隠してしまうことは避ける事、②下地を仕上げとして昇華させることの2点である。 ①は前述の通り、②については、本来はスケルトン→下地工事→仕上工事となる施工プロセスをスケルトン→仕上工事とショートカットすることにより、①を表現しながら工期・コストの圧縮が可能になると考えたからである。 【外壁・天井】 下地材である24mm×36mmの下桟で構成し、天井下地の野縁組そのまま化粧として仕上げた。 下地材は安価な分曲がりや節が多いため、最低限死に節の無い物を選定し、多少の曲りを許容する代わりにそれを感じさせない立体的な格子組としている。 【座敷床】 構造用針葉樹合板をサンドペーパー+塗装仕上げ。 【内外壁・床】 左官は既存下地にパテ処理無し・寒水石混在モルタルで下地を拾う程薄く仕上げ、建物自体の肌感を継承する仕上げとした。 【テーブル・カウンター】 天板はt=30mmのパイン集成材を使用し、カウンターは幕板を廻し厚みのある材料のようにみせている。集成材の柄の反復を活かし、留め加工をせず一枚の材のように見えるディテールとしている。 表通りと比べやや暗い裏通りを明るく照らす提灯が、外壁面の木格子のランダムな影をより柔らかく感じさせている。

クレジット

  • 設計
    小野良輔建築設計事務所
  • 施工
    愛建工業
  • 撮影
    石井紀久

データ