奥出雲の家

ビルディングタイプ
戸建住宅
2
165
日本 島根県

DATA

CREDIT

  • 設計
    中山建築設計事務所
  • 担当者
    中山大介
  • 施工
    竹下美建
  • 撮影
    中山大介

島根県の山間部、広大な農地を見渡す傾斜地にこの家は建っている。 目の前に広がる田園と折り重なる里山の風景はとても豊かで美しく、その中でも水田のそばに建つ農小屋の佇まいは自然に対する営為の素朴さやたくましさが感じられ惹かれるものがあった。また、この地域に建つ家は石州瓦の赤い瓦屋根が大半なので、当初はそれに倣いこの家もその赤い屋根を架けることをぼんやり思い描いていた。しかし、建主の素朴な生活をうかがうと、どっしりとした瓦屋根の民家というより、もっと身軽で簡素な小屋に住まうというイメージのほうがあっていると思いはじめた。都市部ではできないこの地らしい設計をしたい。現代の暮らしをしっかりと踏まえながら、すでにある農小屋のような自然への接し方ができないだろうかと考えながら設計を進めた。 厳しい自然環境に対して日差しを遮って風雪をしのぎ、寒暑を和らげるための確実な設計を積み重ねていくと同時に、目的に忠実なこと、簡素な素材を使うこと、謙虚であることなど農小屋のもつ特徴を意識しながら設計した。屋根形状は自然の理に適った切妻屋根とし、積雪荷重を受けることを重視した厚さ(垂木成)としている。外壁は飾り気のない杉板張りとし目地を同じ杉板でおさえる目板張りとした。アルミサッシはアルミの素地に近い色とし、木製建具は着色せず無塗装だ。風変わりな表現ではなくこの場所での生活を守るために自然だと思える建築のあり方を模索した。格式高い高級車が似合うのが都市部での設計だとするならば、ここでは実用的な軽トラックの似合う家を目指していたように思う。 敷地は北垂れの細長い形状であり、切妻屋根の簡素な躯体を土地の中央に配置した。この地域は標高が高く冬は雪深いことから屋根付きの車庫が望まれ、2階建ての躯体に対して下屋として屋根を架け駐車スペースを確保した。また新潟などで見られる雁木造のような庇のかかった外部空間を道路側に設け、雪の日でも安心して使える場とした。実際暮らし始めてこのような屋根の架かった外部が冬だけでなく夏でも雨の日でも実用的な場になることを目にし、この家での生活を豊かにするための支える場になることを改めて気付かされた。 竣工してもうすぐ4年。その間建主から季節ごとの様々な便りが届いている。夏、屋根のかかる外部で涼しく過ごしたり、広間の大きな窓から打ち上げ花火を見たり、天気のいい日に屋根の上に布団を並べて干したり、大雪の日に雪が分厚く積もる屋根の下、暖かな灯りが窓からもれている様子など。それらの写真からはこの家が住まい手に楽しく使われながら、たくましく育っていく様子が見てとれる。また春には軒下にツバメが営巣し、毎年ヒナが巣立っていくようだ。人だけでなく動物にも心地良い居場所となっており、この家が自然豊かな奥出雲の環境の一部として認めてもらえたようで嬉しく思う。

2