
兼六園近く、横山町にはかつて加賀八家の年寄横山家上屋敷があり、正門前の大きな広見が今でもその痕跡を残している。敷地はその広見の近く、閑静な住宅地の細長い土地で、庭と仕事部屋のある家を建てたいという施主の要望を受けスタディをすすめた。スタディでは庭の配置が難航し、いっそのこと室内に庭の要素を取り入れることで案はまとまった。 細長い敷地では、光の取り入れ方が重要な要素となる。インナーガーデンに面し大きく取った南窓から光を取り入れ、さらに3枚の屋根を高さをずらして配置し、その隙間から東からの光も取り入れることで室内の明るさを確保した。3枚の屋根はエントランスから順に高くなっていき、低く抑えられた暗い色合いのチーク板貼りの質感のある天井から、リビングダイニングのやや明るく高いラワンの天井へと切り替わり、さらに高いインナーガーデンと2階のある明るいシナの天井へと移り変わっていく。 インナーガーデン南側の壁には大きく開口をあけ、十分な光がシマトネリコを照らしている。インナーガーデン奥には仕事部屋、水回り、2階部分に寝室など個室を配置し、3枚の屋根が、パブリックからプライベート感のある落ち着きのある空間の質も切り替えていく。 伝統的街並み区域になるこの地区では外壁の色は指定され、一番低い屋根で構成されたエントランスは落ち着きのある印象を受ける。そのまま玄関を開けると、印象ががらりとかわり、目に入った一番奥のシマトネリコと天井の高いリビングに引き込まれる。施主の集めた観葉植物も加わり、緑あふれる空間は、天井の高さも相まって静かながらも屋外にいるような心地良さが味わえる。 コロナ後の住宅ではテレワークと自宅で過ごす時間の充実が一つのテーマとなるが、そのいい回答のひとつとなるであろう。