
Casa Patio 首都圏や地方を転々とした若夫婦が祖父母の近くに住むことをきめた。それがこの建築の始まりだった。二人の子ども達がすくすくと育ち、おじいちゃんとおばあちゃんと過ごす時間を増やしたいという思いから、祖父母の住宅が建つ敷地に新居を建てることにしたのだ。 最初に敷地を訪れたとき、敷地だけでなく近所の方々のお家も案内して頂いた。そのときに驚いたのは、裏庭から裏庭へと渡り歩いたことであった。常識では家は正面から入るものだが、この土地では庭から入ることができるのであった。近所の方々との会話は庭越しに行われ、都市にはみられないコミュニティのあり方が根付いていると感じた。 新しい住宅を建てるにあたり、既存の祖父母の環境を最大限守ることが重要だと考えた。例えば、先ほど述べた庭はなるべく広く残すこと、既存の和室への日照やリビングへの通風などの住環境を維持するために住宅のヴォリュームを工夫すること、そして近いながらもそれぞれのプライバシーを適度に保つため、開口の位置や向きを丁寧に検討することなどを心がけている。 テラス この住宅の特徴の一つは、中庭に面したテラスである。内部と一体的に繋がったテラスは新居の中心的な場所となっている。家族の団欒の場所となり、天気の良いにはこのテラスでご飯を食べ、ここから庭に降りて遊び、寝転がりながら読書もできる。さらに、おじいちゃん、おばあちゃん達にとってもテラスは新たな空間であり、ふらっと立ち寄り孫と遊ぶこともできる。テラスは三世代が集う場所として設計している。 また、このテラスの一角には大きな石がある。これは家族の記憶の石である。この石はおばあちゃんの昔の家から鎮座していたもので、家族の記憶を結ぶ存在として大事にしたいと考えて二棟の中心に据えた。 ゴロゴロ・スペース この家にはリビングという部屋はない。そのかわり「ゴロゴロ・スペース」と呼ぶ空間がある。そこでは、子どもが寝っ転がったり、子どもと寝っ転がったり、大人が昼寝としたり、もしくは年齢に関係なく勉強したり、読書をしたりする空間である。子どもが子ども部屋に閉じこもるのではなく、勉強や遊びや昼寝などの行為を皆で共有したいという願いのもとに生まれた空間である。将来、子どもたちが大きくなったら腰掛けて使うこともでき、思い思いの時間を過ごす場所として、設計している。 和室 二階は寝室となっている。片流れの屋根のもとに一家全員で寝られる空間となっている。畳、襖、低く設けられた窓など伝統的な和室の要素を残しつつも、色彩や意匠を抽象的な表現は、現代的な数寄屋の意図がある。窓辺に設けられた三角形の棚は、窓枠の一部が室内に延びてできているのもその一つである。数寄屋とは本来、伝統的な日本建築において格式から外れた意匠のことを指す。建築の本来のデザインの面白さはこのような数寄屋的なディテールの意匠にこそ、空間を豊かにする力があると考えている。