
敷地は周囲一帯が森で囲まれ、谷となっている地域だ。平野と比べ日照時間が少なく気温が低いことへの対処が今回の課題となった。また町民が220人ほどのこの地区で、建物も周辺住民との関係づくりにおいて重要なのではないかと考えた。この地域の特性を生かしながら、家族が安らげる空間をつくることを目指した。 施主の要望は子供部屋以外の用途はすべて1階に欲しいというものであったが、敷地の大きさ・形状を考えるとすべてを1階に配置することは難しいと感じた。そこでリビングは2階にし、ダイニングキッチンは家の中心に配置し上部を吹き抜けとした。キッチンと2階のリビングとの距離感をできるだけ近づけるため、1階の階高を低く設定した。2階のリビングからは家全体を見渡すことができ、ワンルームのような空間となった。 都会や密集した住宅地であればプライベート性を重視した窓の配置は重要な項目であるが、地域コミュニティが深く町中のほとんどがつながっている今回のような地域はそのような配慮の必要がないと感じた。そのためキッチンに立つと正面に見える道路に面する窓はあえて大きくした。道路との間に土間スペースというフィルターを挟むことで、外部との程よい距離感を保つことができる。土間スペースには施主が友人から譲り受けた薪ストーブがあり火を囲みながら近所の人たちや友人と会話する様子が想像できる。 日差しが強い南西側にあえて大きく窓をとったのは、地域柄日照時間が短く太陽が強く当たる時間が少ないことからである。夏は吹き抜けを通して風が通るように、冬は少ない日差しをできるだけ多く取り入れるよう、できるだけ建築的に解消するように工夫した。南西側に設けた窓からはリビングスペースでくつろぎながら山々が見られる。1階から見上げると建物は視界に入らず空しか見えないため、日々移り変わる雲の動きを感じられる。 福井市内からほど近いにも関わらず、清流の音や風が通り過ぎる音が心地よく聞こえるこの土地はゆっくりとした時間が流れるように感じる。世代をまたぎ長く住み続けることを前提としているこの土地で、家族の成長とともに太陽の光によって経年変化する木材の温かみも感じてほしい。