いとの森の歯科室

 森に囲まれた1180㎡の敷地に、たった2席だけの歯科を計画した。敷地は、福岡市から車で50分程の立地でありながら、海や森、豊かな自然に恵まれた環境であった。およそ商業には向かない立地とにわかに信じ難い収益席数の中、それでもこの地で開院しようとする施主の決意と意思に共感し、この大らかな環境に相応しい空間の有り様を思考した。  敷地周囲にはクヌギをはじめとした雑木林が生い茂り、その中に築年数や様式の異なる2棟の平屋住戸および倉庫が各々独立して建っていた。このうち既存住戸をそれぞれ診療スペースと院内カフェに改修し、双方をオープンエアーな屋内として繋ぐことで内外連続するホールを増築した。居心地の良いリビングの様なホールは風除室であると同時に、待合、プレイルーム、ワークショップやコンサート会場、近所の寄合などその用途は千変万化する。また、季節の良い日に特注の木製引戸を開放すれば、ほとんど屋外のような空間にもなる。このように、ホールは特定の機能や用途を持たず、隣接する具体的な用途を持つ居場所との間にゆるやかな関係性を築く”触媒”として存在する。  軽快なホールの実現にあたり、重苦しい構造壁を内部に設けることは避けたかった。特殊な金物を用いてラーメン構造とすれば容易であるが、EXP.Jや金物代で高額になってしまう。そこで既存の2棟を桁で連結、独立していた構造物を一体化し水平荷重をすべて既存側で処理することで解決した。また、診療棟は、天井解体後に美しい木造トラスが出てきたことに加え、当環境に相応しい大らかな診療空間とする為に、あえて天井を設けず構造あらわしとし、天井高さを目一杯広がりとして活かしている。  いとの森の歯科室は、従来の歯科医院が発想し得なかったプリミティブな人の居場所の必要性を直感し、構想し、計画した点で新しい。地域に開かれ、恵まれた環境と最高のおもてなしが迎えてくれる、ホスピタリティ溢れる医療行為の理想の姿がこの場所にはある。

チーム

メンバー

クレジット

  • 設計
    ノットイコール一級建築士事務所
  • 担当者
    ノットイコール一級建築士事務所+スプモーニデザインスタジオ
  • 施工
    松光建設、什器・サイン製作:牛島基博・康介 | 牛島木工所、照明協力:岡健一郎 | 大光電機、植栽:溝口朋子 | アトリエ木々、ロゴ・サインデザイン:有吉祐人 | スプモーニデザインスタジオ、ツールデザイン:兼行智虎 | Source design office
  • 撮影
    針金洋介

データ

タグ