BONCHI TEN

ビルディングタイプ
その他オフィス・企業施設
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日本 奈良県

DATA

CREDIT

  • 設計
    Sデザインファーム
  • 担当者
    田中孝幸(Takayuki Tanaka&Co)、鹿内健(Sデザインファーム) 、 田野めぐみ(Sデザインファーム)、倉有希(daichushodesign)
  • 施工
    ヒロタ建設株式会社、塗装仕上げ:中村塗装工業所、音響:sonihouse、木工事・鋼製建具:デザインテック建築工房株式会社
  • 構造設計
    Sデザインファーム
  • 撮影
    桑島薫

【奈良の風土を五感で受け止めて、「よい仕事」を生み出す空間『TEN』。「ウチ」と「ソト」の境界を溶かし、奈良の天を仰ぐwork space。】 奈良市の創業支援施設BONCHIを拠点とし、「よい仕事ができるまち」をつくることを目指すプロジェクトの一環。BONCHIは、1階はカフェやショップ、ブックストアのある公共性の高い空間、2階は会員が使えるコワーキングスペースである。 今回、4階を新たなコンセプトのもとコワーキングスペースにリノベーションした。  “よい仕事”ができる環境とは何か。そうした問いを重ねて導き出された4階のコンセプトは、「悠久の自然や文化に開かれた空間」。奈良のまちにある自然や文化を人々の創造性を引き出す要素だと考え、悠久の風土に触れ、はたらく人をむしろソトに誘うような空間を目指した。  まず、天井に開閉式のトップライト(天窓)を新たに設け、室内に雨や風、陽の光、月星の光を取り込む仕様にした。身辺の自然環境の変化に五感を開くことで、時を意識する空間文脈とする。 トップライトと一対になる作品として、インスタレーション作品『磐座-iwakura』を制作。着想は、平城宮東宮庭園や春日社の自然文化から得た。常設するインスタレーションとして、感覚に訴える構造物であると同時に、集う人々が使える場としての側面も持つ構成にしている。 「磐座」内にはコンセントを設けており、PC作業やその他デスクワークもこのインスタレーションに腰掛けて行うことができ、働ける場として機能する作品でもある。 インスタレーションの中心には静謐な奈良の森に鎮座していた苔石を設え、天窓から落ちる雨風を受けてその苔が育ち続ける仕組みとしている。 苔の周りには3種のガラス砂利を撒き、下部にLEDライトを仕込むことで奈良の伝統色「奈良三彩」の光を放つ演出をしている。その様子を眺めながら時を過ごせる「庭」であることも、このインスタレーションの重要な要素の一つである。  既存の大きな窓は、型ガラスから透明ガラスに変更。興福寺や木々の緑、山並みが一望できるようにした。カーテンには奈良名産の麻を使用し、風の姿を可視化するため、風に棚引くように設置している。  壁・床・天井には、東大寺界隈の白漆喰壁の様子に着想を得て、奈良の空気が染み込んだような気配を目指し、奈良の枕詞である「青丹色」のグラデーション特殊塗装を施した。意匠として、塗装のメイン壁面は東面に施し、その奥に在る春日の森を育む三笠の山の稜線と重なるように壁面塗装の稜線を重ねて描きだしている。  また、あえて座席をたくさん設けていない。一般的なオフィスチェア・デスクは置かず、可動式のテーブルを備えた。利用者は、そのテーブルを使用し、窓際のサイザル麻の座面や古木(吉野の神社にあった樹齢300年ほどの吉野杉)のベンチに腰掛ける。 このように、空間内では奈良に触れながら好きな場所に座ってはたらけるようにした。これは、はたらく人が自由な姿勢でいることで「その人らしさ」、つまり「他と比べることの少ない主体性」が引き出されるのではという仮説に基づいている。  奈良の天空を仰ぐこの4階フロアを、「TEN」と名付けた。 公共施設ならではの広さを活かして、全く新しい空間やそこでの体験を創ること。 BONCHI TENは、work spaceの概念に収まらない、奈良の地のインスピレーションを発端とした多様な文化的経済的活動が生まれる場として、その一つのモデルとなるのではないかと考えている。(田中孝幸、鹿内健)

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物件所在地

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