武蔵野台の家

ビルディングタイプ
戸建住宅

DATA

CREDIT

  • 設計
    ファロ・デザイン 構造/正木構造研究所 植栽/en景観設計
  • 担当者
    ファロ・デザイン/住吉正文、野本 陽 正木構造研究所/正木健太
  • 施工
    井戸鉄建
  • 撮影
    小川重雄

首都圏郊外の駅前商業エリアから少し外れた住宅の密集する近隣商業地域で、プライバシーを保護し採光を確保する3階建ての車庫付き住宅を設計した。この住宅を近くの交差点から眺めるとその外観は縦に長く感じられるが、不思議な事に他からでは印象が異なる。この外観が持つ捉え所のない雰囲気は、建築を支える内部の骨格が不整形である事や、外皮に開口部が少なく内側を想像し辛い事に起因している。 不整形な骨格 骨格即ち鉄骨造の構造体が不整形である理由は、大きく二つある。一つは、敷地形状が不整形である事。さほど広くない敷地の中で有効となる床面積を無駄なく確保するため、外壁を敷地境界線と平行に設け梁と柱を直角だけでなく不整形な鋭角や鈍角で接合させた。もう一つは、採光条件が各階で異なる事。採光の取り辛い1階は自動車利用に適する広い土間とし、2階には個室を集約し、十分に採光確保できる3階は広いLDKとした。広さや位置が各階で異なる無柱空間を支えるため、柱の位置を上下階で重ねない不整形な配置とした。 僅かに揺らぐ外皮 準防火地域における防火性能や街並みとの相性を考慮し、この住宅の外皮を近隣の商業施設等で多く見られるALCパネルとした。内部空間や近隣との関係に合わせALCパネルの幅を部分的に変え、上下階で目地の位置を不揃いとする事で、外皮を作る工業製品の規則性に僅かな揺らぎを持たせ不完全にした。外皮の揺らぎは、細胞組織や鉱物の結晶が規則的な配列の中に不完全な部分を作る事に似て、無理なく自然な振る舞いである。 相互に作用する内部 季節や時間、天候ごとに移り変わる様々な質の光を屋内へ導くため、窓や天窓、高窓、テラス、階段室吹き抜け等、それぞれの位置関係や形状を念入りに検証し、不整形で複雑な構造体に統合した。他にも、歩道からの外壁後退や洗濯動線の集約、昇降機の配置、換気経路の確保、植栽での緩衝領域、最小限の照明、軽い屋根等を考慮した。土間と一体化する吹き抜けは、歩道と住居を段階的に接続するための緩衝空間であると同時に、外気を窓や天窓から感じ、住居をガラス床やテラス越しに感じる事により不整形な建築全体を把握するための中心でもある。 野生的な移動体験 不整形な骨格は、ねじれ交じり合いながら場所と場所の繋がりを作り、重なり合う葉の隙間から差す木漏れ日の様な光の動きを実感させ、その間を移動する身体に能動性を与え、身体の生き生きとした知覚を目覚めさせる。特に吹き抜け空間がまとわりつく階段での移動体験では顕著である。3階分の高低差を行き来する生活には負担もあるが、身体に能動性を与える事は、その様な億劫な日常に刺激を与え前向きに暮らす際にも有効となる。この建築における能動的な移動体験を例えるなら、幹や枝が人の道となる位に大きく複雑な樹木の中を樹上動物の様によじ登っていく感覚に似た、野生的な体験と言える。この住宅は、住人に光と身体の移動を瑞々しく実感させ、住まう喜びに充ちている。

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