
国立競技場にほど近い千駄ヶ谷の商住混在したエリアに位置する、1・2階のテナント空間上部に施主自邸が配された事務所併用住宅です。狭い前面道路による160%の容積率に対して最大限の空間を確保しながら、十分な収益性のあるテナント空間と快適な住空間が共存する建築を模索しました。それまでゆとりある庭付き一戸建て住宅で暮らしていた5人家族の施主は、都心部で床面積も減少する新しい生活空間への懸念がありましたが、それを覆すようなおおらかで開放的な空間を目指しました。 通りレベルでは住環境として高密な場所ながら、容積率は低くとも日影規制内で高さ20mまで建築可能なことを利用し、規制を避けて低く抑えた周辺建物の上空を空地と見立てて住空間に活かすことを考えました。日影規制を徹底的に検討した結果、北側を最大限に高くした階段状のボリュームにたどり着きました。低層部の階高を高くしてテナント空間としての価値を高めると同時に、メゾネットとした住宅部分を周辺建物より高く持ち上げることで、全方位に開放感のある住空間と各階の広々とした屋上テラスが生まれています。 使い方や日影規制に応じて変形させた異形平面が積層され、そのズレから生まれるさまざまな屋外空間が内部を外部に拡張する通路やテラスとして各階に取り込まれます。隣地境界沿いの二面を耐力壁として閉じて垂れ壁のような深いRC梁を交錯させることで、複雑な形状にも関わらずテラス沿いの躯体は細い丸柱のみに抑えられています。網なし耐熱結晶化ガラスによる大型木製防火サッシの利用と相まって、耐火建築らしからぬ開放感あるファサードが実現され、内外が一体となって明るく広がりのある空間が生まれました。植栽が散りばめられたテラスが連なる建物の隙間空間は、谷底から空へと続く渓谷のような立体庭となって、屋上へと開けていきます。 深い梁せいを利用して各階の床下には半階分ほどの厚みのインフラ層が設けられ、天井懐・設備スペース・ロフト・小屋裏収納・床下収納・植栽ピットなどとして上下階から有効活用されることで、床面積以上のキャパシティと自由で開かれた主空間が生まれました。この分厚くはねだした層の周囲は屋上手摺の日影規制免除に必要な縦格子意匠を展開した帯状ファサードで覆われ、ルーバー効果で周囲からの視線をコントロールすると同時に水平ボリュームの積層を強調しています。 最上階の4階を玄関とするメゾネットの住宅部分では、上階のLDK空間を高窓へ伸び上がるワンルームとし、下階には本棚に囲まれた広間を廊下代わりに4つの個室と水回りがコンパクトに配されました。各階の主空間である4階リビングダイニングと3階広間は、書斎も兼ねた階段室を介して帯状のワンルームとしてゆるやかにつながり、さらに各階の全開放可能な大型サッシから屋外テラスへと拡張し、それが鮮やかな緑に囲まれた外階段で再び結ばれて、内外一体となった大きな立体ループが形成されます。リビングの高窓の先には渦巻き状に巻き上がるもう一つの屋上テラスが広がり、空に浮かぶ大きな滑り台のようなプレイグラウンドが頂部を彩ります。二層の住宅と三層のテラスを巡るこの回遊性に満ちた空間連続体では、周縁に配された家具や植栽によって様々な場所が生まれ、その中を光・風・視線が流れて子供たちが駆け回ります。 厳しい諸条件の中、制限の中からあぶり出された敷地のポテンシャルが緻密に統合されて、このプロジェクトならではの存在感ある意匠に昇華されたのではないかと思います。背伸びした要塞のような佇まいの裏に隠れた、緑溢れる小高いオアシス。都心居住や複合用途建築の一つの在り方を提案すると同時に、一人の人間としてここで育つ子供たちを心から羨ましく思えるような、楽しく伸びやかな空間を目指しました。東京の空を存分に味わう豊かな暮らしを期待しています。