
PROJECT MEMBER
東京のベットタウン世田谷の旗竿敷地に計画された小さな住宅です。 当初から、住宅の一部をクッキー屋さんにしたいというのが大きな要望の一つでした。しかし、もともと小さい敷地の上に旗竿地という条件の中で店舗兼住宅を納めるのは困難を極めました。そこで、東京にかつてからある職住一体の町屋の生活を思い浮かべてみました。それは、店舗と家とがとても近い距離で接続されているだけでなく、そこに訪れる来客とも結びついたコミュニティのある楽しい日常です。今回の計画でもそのようにお店と住宅が断絶せず、むしろ開放的で繋がっていくような構成を考えられないか、そこに住むご家族とお店に訪れるご近所のお客さんとが自然と結びついていくコミュニティが実現できないかを検討していくようになりました。 具体的には1階のお店を含め5畳ほどの小さな空間を数珠状に半階ずつずらしながら垂直方向に重ねていきました。高度斜線のため切られてしまう屋根部分は思い切ってトップライトにして、半階ずれた床に乱反射しながら最下階まで光が届くようにしました。 間仕切りはほとんどなく、お店と家との間もガラスがはめられた「ふすま」のようなもので、かろうじて仕切られるようにしてあるだけです。また、室内の床、壁、天井のほとんどはラーチ合板を菱形にカットしたもので仕上げました。ラーチ合板は最も安価な建築材料の一つですが、一手間掛けることで、非常に奥深い表情を持つ材料に生まれ変わります。同じく外壁のガルバリウム鋼板はメンテナンスが楽で安価な材料ですが、やはり一手間掛けて、これまでにないユニークな表情を持つ外観となります。 この住宅は小さいスペースが「ひだ」のように折れ曲がりながら深く繋がっていくような内部空間と上部に向かって尖っていく外観から「ツボミハウス」という名前がつけられました。クッキー屋さんも開店してから順調にお客さんを増やし、現在では定期的に「マルシェ」と呼ばれる小さな市場が敷地の旗竿部分で開かれるほど街で親しまれている建築となっています。