川と家

■自邸として考えたこと 川に面した細長い三角形の敷地で計画した、家族4人のための住宅である。 自邸を考えるにあたって、敷地と、環境と、家族と、自分と、とにかく向き合うことに専念した。 敷地には何度も通い、時には草刈りをしながらおにぎりを食べたりして1日を過ごし、自分が置かれた環境を肌で感じた。 道路に沿って敷地に向かって進むと視線の先に常に小さな堤防と川があり、そのままどん詰まりになるという特殊な環境で、道路も小さな堤防も、この土地を訪れる人しか使わないような半私的な場所である。 川や道路といった不変的なコンテクストを拠り所に、川と平行にリニアな空間を並べて積み上げる構成とした。 訪れる人の視線の先に常に東面のファサードが立ち上がり、その奥に川の景色が透けている。 断面的な構成を考えるときには、自分たちの暮らしをひたすら想像しながら空間のつながりを作っていった。 料理しながら川を眺めて、天気が良ければそのまま外で食事をするのもいいかも、とか、自然光で本を読める場所がいろんなところにあるといいな、とか、朝に風が通って光が入るお風呂に入れると気持ち良さそうだな、とか、とにかく暮らしを脈略なく等価に並べて積み上げていった。 その結果、空間は全部が近くなって、nLDKの概念は崩れて、水廻りも寝室もダイニングも階段も、すべてが等価ですべてが居場所となって、仕切りのない小さな空間の積み上げに統合されていった。 ■今、暮らしてみて感じること 朝、東の高窓から差し込む光、朝日を受けてきらきらする川、朝の澄んだ空気感をまとって内外の境が揺らいでいくような感覚に包まれる。 食事を作っていると川と家と土地を繋ぐ広い階段に子供たちがいることが多い。宿題をしていたり、ゲームをしていたり。そうやってなんとなく私のそばにいて、でも別々のことをしながら、お互いの存在は感じている。 それはこの家の場合、どこにいても一緒なのだ。 内外の境が薄れてすべての空間が等価になったことで空間のヒエラルキーがなくなり、部屋同士、屋内屋外の繋がりに新しい関係性を感じている。 季節の移ろい、光の入り方を感じながら今一番気持ち良い場所が居所になる。 様々な行為や物が境界を越境して周囲の環境やまちとつながっている。 これから春が来て、夏が来ると、土地や川とつながる窓を開け放して暮らすことも多くなるだろう。より一層、内外の境界が薄れていくことを想像しながら、次の季節が来ることを待ち詫びている。   

クレジット

  • 設計
    飛騨五木株式会社 / goboc設計事務所、大工工事:大視建築、木材調達・製材:井上工務店、基礎:樋口土建、プレカット:東海プレカット、板金:多造板金、設備:米田住宅設備、電気:ファース、家具:久米製作所、飛騨産業、日進木工、外構・造園:小椋造園
  • 担当者
    井端菜美
  • 施工
    井上工務店 井端啓輔
  • 撮影
    谷川ヒロシ

データ