




中野区弥生町のビルに、演劇やダンス稽古のためのスタジオ空間をデザインした。 改修を行ったのは、以前からスタジオとして利用されていたテナントビルの地下1階と6階である。クライアントの要望は多くなかったが、稽古場面積をなるべく大きく確保したワンルーム空間を、ローコストで実現することが求められた。そのため、どの部分をデザインするかの選択が、このプロジェクトの肝になると早い段階で認識できた。 我々が提案したのは、前テナントのなごりや環境要素といった細微なコンテクストを掬い上げ、それによって生まれる移ろいのある空間である。 地下1階は、接着剤が残ったCBやRC躯体が荒々しく現れたスケルトン状態となっており、そのままでも十分現代的なデザインとして成り立たせることは可能に思えた。しかし、昨今みられる引き算的なリノベーションによる空間デザインや、本来隠れている既存の要素(今回で言えばボンド跡や柱などに記入された施工マーカーなど)を価値転換して魅せるといった手法はとらず、このプロジェクトでは既存空間への介入の仕方をもう少し探求することにした。具体的には、網戸の防虫ネットを仕上げ材として流用することで、視覚的な空間の変容を試みている。まず1枚のネットを既存のブロック壁へ貼り付け、もう1枚のネットをその上から張ることで、接着剤跡も含めたコンクリートブロックの荒々しさ(不陸)を抽出し、モアレという現象に置き換えている。ダンスや演劇の空間利用において2重網による仕上げは、荒々しい壁への緩衝材として人を保護する機能として働くだけでなく、立つ場所によって見え方が微妙に異なる空間を生み出し、身体表現の創造性を刺激することを期待している。 6階は、居抜き状態で空間は黒く塗りつぶされていた。初見で印象に残ったのは、大きく設けられた開口によってたっぷり降り注ぐ自然光だった。そこで、空間を白く塗り直して最大限明るくし、太陽光を活かした仕上げ材を探求することにした。太陽光は季節や天候などにより、明るさだけでなく色や温度、高さ、方角、日照時間などが常に移ろい続けている。その移ろいの「細微」を受け止め、我々に知覚させるものとして、床の仕上げに着目した。フローリングには導管と呼ばれる微細な溝や、春目や秋目といった木目の凹凸があり、そこへグリッター(美容製品などに使われる金属粉)を刷り込むことで、慣れ親しんだ素材の中にゆらぐような光の反射が生まれた。太陽光に当たりキラキラと輝く木目は、見る角度や時間によって異なる表情を見せる。その空間の移ろいが、ここで行われる稽古の風景をささやかに彩ることを期待している。 地下1階では既存壁の凹凸をモアレという現象に置き換え、6階では太陽光の移ろいを床の煌めきに変換するなど、既存空間の特徴を「少し」だけ掬い取り翻訳しなおすことで生まれる移ろいが、演劇やダンス表現の一助となることを願っている。
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