
昭和40年代に開発された横浜の古い分譲地の一画に「狭間の清籟」は計画された。 40代の夫婦二人の住まいである。 周辺環境を考慮し街に溶け込みながら、内部に新しい風景を創出することを最大の目的とした住宅である。 二つのコアに挟まれるように生まれた中庭は、プライバシーを確保しながら、内外の境目を曖昧にする開放性の高い空間となった。 最寄りの駅から計画地まで歩いてみると、大きな敷地を分割した建売住宅と築50年を超える 古い邸宅が混同している統一感の無い街並みが続いた。 そこで、街に対して謙虚に佇む形態を模索する事となる。 二人暮らしの為そこまで大きな床面積は必要なく、必然的に平屋の構想としてスタートした。 敷地面積は広いものの、廻りを住宅に囲まれており、プライバシーと開放性の観点から 内に開く形体を採用する事となる。 まず、東西方向を軸として二つのコアに分け、南側のコアの一部を2階建てとする事により、 道路面から視線を空へと逃がすような片流れの屋根とした。 これは、街に対して威圧感を与えないデザインとなっている。 また、奥行きのある形態にはなるが、距離感がぼかされ豪奢なイメージから遠避ける目的でもある。 屋根すなわち建築の形状にて「光」「視線」「風」をコントロールしている。 隣家の窓が集まる箇所を2階建てとし、そこからゆるやかに道路へ屋根を傾斜させ、北側のコアに南東の気持ちの良い光を集める計画となっている。 二つのコアはそれぞれの独立性を高めつつ、中庭を介し互いの気配を感じながら共存する。 その中庭を廊下がぐるりと一周できるようになっており、その廊下も居室の一部とし中庭と繋がる形状とした。 これは内外が反転する事により、距離感が増幅される計画となっている。 また、場所を少し移動しただけで全く違う景色が展開され、夫婦それぞれがお気に入りの場所、場面を見つけられるような日常が生まれる空間となった。 建物の狭間に佇むみ空を見上げると、柔らかい風がゆっくりと頬を通り抜ける。