
PROJECT MEMBER
横浜の住宅地に建つ2世帯住宅である。 この家は人びとが共感できる住宅にしようと設計した。人びとと価値観を共有することが住人の幸せにつながると思ったからだ。だからこの家は、住人の個人的な「らしさ」はなるべく消して、ささら子下見板の外壁、下屋のある母屋、田の字平面、畳、襖、洗い出しの土間、真壁、といった、人びとが慣れ親しんだもので建物の全体をつくろうとしている。その全体の中のあちこちにデザインされた細部が散りばめられている(フリル状の下見板、花弁状の庇、透明な霧除け、不連続な手摺り、手書きの襖絵、田の字平面の変形、片持ち棟木、大天井……)。 近隣の人たちが「この家は一番新しいのに一番古い」と愉しげに話していたことがあったらしい。また、ある日住人が玄関を開けたら知らない老人が外壁をさすっていたこともあったようだ。「家ってだいたいこういうものだ」という平凡で旧来的な枠組みも、捉え方によっては人びとの意識に働きかける手がかりに出来るように思われる。 ユニークな建築家がユニークな建築をつくるという図式は分かりやすい。斬新な発想が独創的な建物をつくるのだ。一方、ユニークな社会がユニークな建築をつくるという図式もあるように思われる。前者は社会を超越し、後者は社会に埋め込まれている。特に後者は「社会が空疎だと建築も空疎になる」というリスクを負う代わりに「この建物はこの街の重要な一部分である」「この建物が無くなると社会の一部が欠損してしまう」といった人びとの思い入れを喚起できる可能性がある。そんな建物を設計するのも私たちの仕事だと思うのだ。