




建主はご夫婦と小学生の子ども二人(のちに三人)の家族構成で、敷地は奥様の地元でお父様が営んでいた事業所のあった場所。福岡西鉄沿線の中高層の商業ビルやマンションのエリアから住宅地へ向かう転換点に位置し、ご夫婦家族は以前からこの敷地近くの賃貸住宅に住んでいました。ここに住宅を新築するにあたって、慣れ親しんでいるまちの中とはいえ、将来の沿線ビルの更新や周辺住民の流入出などの住環境の変化を踏まえると周辺の公と住居の個の部分をどう関係づけていくかをもう一度慎重に考えることにしました。住宅のみならず建築することは他者(ヒト/モノ/コト)との関係をかたちにすることであり、その関係は住まい手と周辺環境にとって固有なものです。同じビルディングタイプをどこにでも同じように当てはめる無造作な行為はさけ、関係を紡ぎだすようにかたちを模索しました。 プランは、プライバシーを優先しつつも、一面を開放させた閉じない中庭を持つコの字型。中庭は、室内からも望められることはもちろん、周囲に対しては住まいの温かさや庭の様子が垣間見える「ニッチ(くぼみ)」の様に位置づけました。ひとつの庭ではあるものの、街並の景観や心象風景の潤いになって欲しいことと、建主家族のまさに子育て中の現在から高齢になる将来に渡ってまちや地域の方々に見守られるという窓口の様な役割として、その繋がり方を体現したのです。この中庭の有り様は、生物学的にいうニッチをもつ二者が少し場所や時間をずらすことで棲み分けを可能にしている要素でもあります。ここでは、公と私という二者が同じ環境に共存しながら、お互いを補強しながらその生態系つまり個も含めた環境をバランスよく維持していくことを創造しました。 この中庭の近傍は、ご家族固有の周辺との距離感を建築化しています。大小のボリュームの構えや中庭側に突き出た外壁(袖壁)、透かし積みの煉瓦塀は、通りから近づくにつれて徐々に中庭側に視線を通し、通過するにしたがってその視線を遮ってくれる。正対して視線が通ったとしても正面は廊下の外壁面であり両脇の居室空間への視線はやわらかくそらします。金属板の平葺きで表情をつけ、ブラックの様なダークカラーを避けたのも、親しみを感じてもらえるような程よい他者との距離感にしたかったからです。とかく都市近郊にみられる住まい手不詳の無表情な住宅のあり方や逆にガラス張りでオープンすぎていつもブラインドで閉じられてしまうような残念な状態はさけ、独りよがりにならない相方にとってここちよい関係づくりの機会を潜在させました。 外観は大小の片流屋根のボリュームの姿が特徴的で、大きなボリュームには1階がファミリースペース、2階は小屋裏を利用した立体的な子ども室や小屋裏収納を設けています。片方が高くなる片流れ屋根の特性を利用し、縦方向に空間を補完したのです。小さなボリュームは、離れ的な和室や浴室等の水回りといった小間で構成し、小さな容積に相応しい内部機能で整理しました。外周の外壁は、風雨を遮る軒を出さない代わりに耐候性に信頼できる金属板の平葺きを採用し、それにより平面ボリュームを敷地境界近くまで広げられました。一方、中庭回りは、軒を出すことでバルコニーやテラスの中間領域をつくるのと同時に、風雨から保護された環境となり、耐候性よりもまちへの景観的潤いを担うべく、中庭の植栽や土壌のウェット感に似合った吹付け材を選定しました。 立地環境と生活を満たす空間、時間軸で考えた住まいの性能を意識した、「形態」と「機能」或は「環境」と「素材」の均整を軸にした建築空間としています。
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