
風景を囲い取る線状の構築体 高台にある敷地からは、街の古い部分と新しい部分、地形を貫くように流れる大井川、そして変わらない風景を一望することができる。時間をかけて新旧が混ざり合い形成された街を、ひとつの風景として感じられる場所である。 計画地は道路からひな壇上に傾斜した土地で、地形に合わせてうねるように積まれた川石の塀によって形成されている。北側へ開かれた丘陵地のため、台風や強風などの被害が多く、設計中にも屋根や外壁を損傷した建物が散見された。土地にはもともと古い家屋が建っていたこともあり、平地部については安定していたが、構造耐力の期待できない既存の石塀を安全なものにつくり替えたり、敷地全体を造成するには予算の問題と共にこの場所の魅力を削ぐことになってしまう。 そこで蜘蛛が糸を使ってさまざまな場所に巣を張るように、敷地条件をほぼそのまま引き受けつつ単一の木材によって風景を編み込む住まいを考えた。まず、石塀の安息角内にべた基礎を定着させ、その上に120mm角のヒノキ材のみを用いて井桁状に架構を組むことで各階に柱のない内部空間をつくり出した。1、2階共に北側の連窓から風景を取り込み、南側のハイサイド窓から日射を取り込む構成とし、建物外周には同寸の斜材を設けることで架構のねじれ防止と、崖崩れなど不測の事態にも耐え得る構造耐力を確保した。玄関およびアプローチ部分については跳ね出すことで上部地盤との縁を切っている。外壁の断面は構造材と同寸のH120mmピッチとなる高さを設定し、30×105mmのスギ材を120mmピッチで外壁に張ることで、跳ね出した架構との干渉を避けつつ、台風などの被害や老朽化に対して1枚単位での交換を可能にした。線状の構築体により自然との境界を曖昧にしながら囲い取り、この土地の風土との新たな関係を築くこの家での生活が、自然や街、鉄道、古い川石による石垣など、風景をかたちづくるものに宿る豊かな記憶と共に育まれることを求めた。