
"普段家の周りを歩いていると、似たり寄ったりな街並みが続いてゆく中、ふとした瞬間に目を凝らすと庭先に植えられている木々や道端に生えている雑草、街路樹が落とす木漏れ日、建物の間から見える空など心を打たれる瞬間がある。 そんな街へ散らばっている些細な風景を掬いその風景のうつろいと共に過ごす住宅の提案。 敷地は都心の住宅街で分筆され小さくなった土地。 周りには住宅が建ち並び敷地の周りを囲んでいる。 些細な風景を掬うように敷地の北側にある道路と住宅、南側にある隣地の通路を繋ぎ合わせ、都市と住宅を繋ぐ谷を家の中へ取り込むことで、都市的な空間と住宅の空間を曖昧にし、都市に散らばっている要素を掬い取る。 その谷の表面は、シルバー色とし隣地の建物、街の植物、人の影、空の色を掬う。 風が吹くと植物の葉がそよそよと動き、雨の後はトップライトに残った雨粒がゆらゆらと影を落とす。 そんな様々な動きを掬い取り、谷空間全体に新しい風景をつくり出す。 平面と曲面でつくられた谷を介することで、その風景の解像度を落としながらぼんやりと谷全体を包み、 雑多な住宅街としての風景ではなく、木々の緑や空の青色や空合のうつろいといった些細な風景を纏う。 そんな空間内を移動していく中で、天気に囲まれた風景や周辺住宅の植木の色などさまざまな風景が混じり合った新しい風景に出逢いながら家の中を散策してゆく。 また谷の端々は、上から下まで開けることができる計画としている。 普段部屋の一部であった谷空間は、全ての開口部を開けることで、谷と外が一体となり、谷に浮かぶスラブがバルコニーのような用途へとうつろい、風景と共に谷の使い方もうつろってゆく。 そして谷を挟むそれぞれのボリュームの各部屋からは、さまざまな形状、高さの開口があり、外の風景や風景を掬う谷の表面が見える。 その時に掬われた風景を見て居場所を選び、本を読んだり食事をする場へとうつろってゆく。 街の風景を取り込むことで、小さな敷地の中に一年を通しここにしかない新しい風景が生まれた。 (小野 里紗)"