
PROJECT MEMBER
住宅地の中を抜け多摩川の堤防に出ると風景は一変する。光る水面と水音、富士山も望める遠くの山並み、視界の半分以上を占める広い空。都市の中にありながら地球を意識させてくれる大きな自然に面してこの建築はある。前面道路(堤防)は敷地より2m高いレベルにあり、車や自転車だけでなく散歩する人も多い。人のスケールを超えた風景と対峙し、南側にある堤防からの視線にさらされることへの解決として、ここではモルタル仕上げの構造壁で外周部を囲み、柔らかな質感のサワラ材を張った居住空間を内側に包み込む構成を取った。外側の殻としての構造壁と内側の生活空間の仕切壁がレイヤー状に重なることで奥行き感のある空間を構成し、堤防からの視線をかわす。建築は1階建てとしたが、室内からも堤防越しに風景を眺められる場所を確保できるように南側の軒高は4.6mとした。光庭のある南側の1.5階分の高さがある1枚屋根の下の空間は、冬の午後の光を部屋の奥まで引き込み、室内からは南の空を臨むことを可能にする。ガラス窓を設けることから開放された外周部の構造壁が作る陰影が、水平に広がる多摩川の風景の中にあってメリハリの利いたファサードとして立ち表れる。堤防に近い南側には屋根の架かった屋外空間、玄関や土間を配置し、その北側には光や風を確保するために光庭を設け、この庭を囲むかたちでダイニング・キッチンやフリースペースを連ねた。北側には寝室、洗面室、浴室、納戸等の個室を一列に配置し、低い屋根を架けている。