
DATA
- ビルディングタイプ
- 共同住宅・集合住宅・寮
- 構造
- 混構造
- 工事種別
- 新築
- 延べ床面積
- 183.84㎡
- 竣工
- 2019-11
CREDIT
- 設計
- 333architects
- 担当者
- 宇津木喬行、高橋良弘
- 施工
- 株式会社昭和未来
- 構造設計
- 田中哲也建築構造計画
- 撮影
- 水谷夏樹
『家の半分をシェアスペースとしてひらき、オーナー・住人・まちの、三方よしを実現するシェア型共同住宅』 Isecho NESTは、オーナー住戸と賃貸住宅2戸で構成された共同住宅である。試みたのは「住宅を半分ひらく」ということである。 公園が隣接する立地を活かし、オーナー住戸の大半を時間によって誰もが使えるシェアスペースとした。具体的には、オーナー住戸の一部をシェア空間に置き換えている。リビングをシェアリビングに、玄関をコーヒースタンドに、書斎をシェアオフィスにといった具合だ。そこに、時間によって切り替え可能なセキュリティを施すことで、公園に面した心地の良い場所をひらいている。オーナーは家賃+シェア収益で住居費が0になり、住人は豊かな共用部をもち、まちには小商いの場が生まれるという3方よしを実現している。 分譲地の一角で、住宅ローンを活用して実現したこの仕組みは、まちと住まい手が「よりよく暮らせる」一つのモデルになりえるのではないかと考えている。まちと家の双方を楽しくすることの重要さがコロナウィルスにより顕在化した今、住まいに必要不可欠な要素だと強く思う。 『複数の公園に面した場所にセミパブリックな場をつくる』 計画地は、再開発によって生まれた複数の公園に面した分譲地の一画にある。立地条件を最大限に活かすため、公園に対してセミパブリックな空間をつくり、計画建物はもとより周辺環境の価値をあげられないかと考えた。建売住宅が並び、庭には車が置かれた郊外住宅の風景に、公園に面した気持ちよさを存分に楽しむ、そんな「ふつうに良い場所」を作りたいと考えた。 『オーナー住戸の大半をシェアスペースに置き換える』 「ライフコストの大半を占める住居費を、クリエイティブに減らせないか」という着想がこのプロジェクトの始まりである。そこで、金利が低く長期固定で借りられる住宅ローンを活用しつつ、収益を得ることができる賃貸併用住宅をつくることを考えた。さらに、オーナー住戸の公園に面した部分をシェア空間に置き換え、オーナー不在時も誰かが家を使っているという高稼働の「半分開いた」住宅が実現している。各シェア空間には直接アクセスできる動線を確保するとともに、セキュリティがかけられるようにしている。これによりオーナーの住まい方によって、ひらく部分を切り替えられる。 『シェアするという「新しい生活の楽しさ」を生む』 設計においては、シェアする楽しさをいかにつくるかということを考えた。まちゆく人が腰掛けられるように目の前の坂道に面してベンチを設置したり、外部通路の手摺りをベンチで代用し、コーヒースタンドを訪れた人が座れるようにしたり、シェアリビングには大人数利用にも耐えうる5mのロングソファを置いたりしている。いわば半分開いたこの住宅は、昔の日本住宅が持っていた緩い空気感を持っている。縁側越しに気軽に声をかけあうような、そんな温かい繋がりがこれから生まれる予感がしている。 『運営方法 場を共有する新しい「縁」』 シェアスペースを内包した賃貸併用住宅というハード面もさることながら、それを運用し育む仕組みをいかにつくるかということが大切だと考えた。単なるスペース貸しだけでは面白くない。常にコミュニティマネージャーが介在し、シェアスペースを活用し、そこを使う人同士を繋げる仕組みが必要不可欠である。幸いなことに平日は、設計者であり賃貸部分に入居している333architectsが、休日はオーナー家族が、シェアスペースのコミュニティマネージャーとなることで、普段の生活の中で無理なく運用することができている。 運用を始めて感じるのは、「ひとつの場所を共有することで、新しい縁が生まれる」ということである。コーヒースタンドでは、日本茶ソムリエによるカフェが定期開催されるようになり、近隣の住人がその活動に興味をもって、このスペースの使い方を想像し、自分も何かやりたいという人が出始めている。心地よい場所を共有することで、それを気持ち良いと感じる同じ価値観の人が集まる。そこから新しいプロジェクトや、スキル交換が生まれると最高だ。そんな温かく、クリエイティブな循環が生まれることを楽しみに見守って行きたい。 『コロナを経て思うこと』 奇しくもコロナショックにより、この住宅が持つ価値が最大限発揮され、日々穏やかな生活を送ることができている。総じて言うと「インディペンデント・デザイン」=お金や場所の制約を受けないデザインの効果を感じている。まず、「住居費がゼロであること」により、ライフコストが低く抑えられているため、収入が減っても不安なく生活することができている。そして、「ワークスペースが家の中に複数あること」で、気分によって働く場所を変えられるのでストレスなく在宅ワークができている。 所在地:横浜市西区伊勢町