
PROJECT MEMBER
プロジェクトの開始時にクライアントから「かいしんのいちげき」という店名が伝えられ、 あとは自由にデザインすることとなった。 "かいしんのいちげき”は言わずと知れた往年の大ヒットRPGからの言葉で皆が懐かしのゲーム風景を 思い起こすものだろう。ともかくその店名を手掛かりに ドットで描かれた今見ると親しみが感じられるカクカクと解像度の低い初期ビデオゲームの世界をイメージしながら デザインを進めた。ゲームからインスピレーションを受けつつも、陳腐なゲームの雰囲気になり過ぎないように ある程度抽象的に整える事を意識し詰めていった。 用いた素材は、白いタイル、杉、モルタル、タイルカーペットなど、一般的で安価なものばかりであるが、 その組み合わせや造形、デザインの統一性などで広い層に楽しい店と思ってもらえる訴求力と それだけではない独特の空気を醸し出すものになればと思いデザインした。 具体的には、先ずはグレーのモルタルに白いタイルで描いた波打つ麺をイメージした模様が店内外を飾っている。 白い模様は間隔を空けた方が麺と認識しやすくなるが、ストライプの印象が増し陳腐に感じられたので、 市松模様が崩れた様なやや良く分からない状態に留める事にした。 看板の「つけめん」の文字は平面のゲームの世界が3Dに発展した様なイメージでデザインした。 立方体の木を積み上げ、黄色く塗っただけのものだが、看板に立体的操作を加えた事でこの店のデザインのユニーク さを通りへ伝えるものとなったのではと思う。 クライアントからは様々な調味料でテーブルの上がごちゃつくのを避けるために調味料の隠し方を考えて欲しいと 言われていた。そこで、調味料ひとつひとつをゲーム内で手に入れるアイテムに見立て隠すよりも 並べるほどにデザインコンセプトが強化される様な台座を用意した。 小上り席は子供の転落防止とちょっとした個室感の演出の為に城をイメージした壁で囲った。 無機質になり過ぎないように天板に杉を配置し床のグリーンのタイルカーペットはRPGのフィールドのイメージで 形を造った。 カウンターやテーブル席の椅子の脚は昔ながらのラーメン屋にも使われていそうな既製品の丸い金属製の物とした。 四角いグリッドだけで構成されたインテリアには異質な存在だが、これくらいのちょっとしたノイズが入る方が、 デザインコンセプトに沿って統一し過ぎるよりも、空間に親しみ易さを加えてくれるように感じている。 ゲームの世界を元に、小さな四角の集合で構成していくという方向性が決まった後も、 各要素をより面白く見せたいと丹念にデザインを重ねた。そうした要素の集まりが空間に独特の空気を 帯びさせてくれていたら嬉しいと思う。