南花田の墳

ビルディングタイプ
戸建住宅

DATA

CREDIT

  • 設計
    芦澤竜一建築設計事務所
  • 担当者
    芦澤竜一、武曽雅嗣
  • 施工
    西村建築工房
  • 構造設計
    陶器浩一
  • 撮影
    市川かおり

敷地がある堺市は南大阪エリアの中核都市であり百舌鳥古墳群がある。古墳はかつての権力者の墓としえつくられ、現在では街に溶け込む景観となり、しかしそれ自体の地域社会での機能的な意味は特段ない。一方で現在の住宅は住み手の生活機能に基づき諸室が計画され、機能を想定しない余白は計画されにくい。そこで地域のコンテクストから思考し、死をも感じる霊性の高い空間を備えた住宅をつくろうと考えた。 南側に家族3人が暮らす日常空間、北側に非日常空間を配置した。日常空間は切妻屋根の下2層のダブルスキンの構成をとり、周囲に土間や縁を設け、その内側に1階に食堂・居間、2階に2つの個室を設けた。バッファー空間である土間と縁は、東の母屋、西側の道、南側の庭といった外部とゆるやかに関係性をつくり、室内環境を調整空間である。そこに構造壁と引戸収納を兼ねた2層分の本棚を4か所設け、住み手が要望する近隣住民が気軽に立ち寄り、閲覧できる街のライブラリーを実現した。また本棚以外は建具により開放できる空間を実現している。外壁は周囲の古い民家と同様焼杉を用いて、内部空間は木構造を露とした仕上げとしている。非日常空間は高さ6.4mの卵状のドーム空間で階段を内包しているが、日常の中に何もない空白をつくろうと考えた。内側にも小さなドーム空間を2つつくり、浴室そして洗濯室を配置している。身体や衣類を清めることもまた日常を切り替える「間」として考えた。この何もない間は、内外全てを土で仕上げを施し、内側は全面手叩きによって縄文土器のような表情をもつ。前方後円墳を継承した住宅は、日常にあふれる住宅地にある種の違和感を生み、街の景の一部となっていくであろう。  南側の生活空間は、土間や縁によるダブルスキンの構成とし、環境を調整する様々な機能を持つ。夏場の1Fの居間に直射光が入らないように土間スペースや庇長さの検討を行い、北側ドーム空間と南側生活空間で、建具を調整し、室内で風環境を形成することができる。冬場は、1Fの居間空間は直射光を取り込み、床の土間によって蓄熱し、さらに障子引戸を閉めることで外部環境に影響を受にくい室内環境をつくる。2階の室も、障子引戸と可動天井を開閉することで自然環境と関係性を築く室内環境を形成した。  卵型シェルをもつ無の間は、大きな空洞空間を覆う柔らかい局面の殻を如何に築くかが最大のテーマであった。短く切ったツーバイ材を切り口をずらしながら2枚重ね、ベニヤ板で挟んでビスで留めることで大きな弓形の骨格材をつくった。それを放射状に並べて全体の骨格を作り、ベニヤ板を貼り、土壁で固めることで、直線、平面部材だけで、頑丈な三次曲面の構造体を構成した。南側の生の空間は、在来木造で105角の柱材、105×240の梁材を用いたシンプルな構造とし、小屋組みは山型に規則正しく並べた部材同士を丸鋼で結んで軽くて開放的なものとしている。水平力に対しては、北側の堅い殻が全体の文鎮のような役割を果たし、南側生活空間は本棚と一体化した最小限の耐震壁のみで成り立たせ、外部に開かれた空間を実現している。

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