池上のクリニック

ビルディングタイプ
医療施設

DATA

CREDIT

  • 設計
    徳田慎一建築設計事務所 ベンチ制作:ニュウファニチャーワークス
  • 施工
    TH-1
  • 構造設計
    KKSエンジニア
  • 撮影
    morinakayasuaki

本門寺参道の賑わいから半歩引いた敷地の奥。この建築は、いまから70年程前、若き耳鼻科医が木造平屋建ての住居を構えたところから始まった、と聞く。独立開業し、家族が増え、都度増改築を重ねてきたが、彼が他界してしばらく、空き家になっていた。今回、長く大学病院に勤めてきた泌尿器科医が、建築を引き継いで再開することになった。キャリアの集大成を町医者として生きる、その拠点に選んだのだ。 建築のこれから、町の診療所として生きる時間を意識したとき、建築を一から更新する大掛かりな手立てはそぐわない気がした。それよりも、これまでの増改築の延長線上で空間をチューンアップする、小さな手立てを選ぶことにした。 過去の増築工事は丁寧になされていたが、壁量分布に偏りがあり、外壁開口も多く、構造的なバランスを欠いていた。現況図を起こし、泌尿器科診療に必要な平面計画を重ねあわせながら、補強する部分を選択した。採光窓は柱と筋違を通して補強し、必要でない窓は断熱性能向上も意図して塞いだ。内壁は、壁材を構造用合板に置き換え、動線上不要な開口は耐力壁として作り替えた。間取りは崩さない。床はほぼ全て剥がし、防湿対策と基礎補強を経て、全体にフラットなレベルを作り直している。 平面計画では、旧診療所部分だけでは不足する必要面積を旧住居側に求めた。新しい診察室はかつての食堂と応接間である。待合部分、診察行為にあたる部分を、田の字型に繋がる4室に割り当て、什器・建具を、間取りを横断するように配置した。受付の緩い囲いがスタッフの空間と動線をつくり、診察室の収納が2室を束ね、検査室を隔てる。 これまでの大工工事による木造のスケールは、間取りそのものや、開口建具枠、壁面造作にそのまま残っている。そこに、構造補強の大壁、現しの3寸5分柱と同じ断面で土台から屋根梁を繋ぐ柱、剥がした天井裏が、やや大ぶりな要素として隣り合う。待合室のベンチは、普通よりゆったり作る。既製のイスや診察台が並ぶ。そして、建築よりは小さく家具よりは大きなスケールの什器と建具が加わる。既存の階段下に引戸上枠が納まる高さが新しいガイドラインになる。木造ならではの、接ぎ木するように拡張してきた空間の作法に沿いながら、異なるスケールが重層している。「これまで」を定着させずに、「これから」との間を行き来する揺らいだ状態に置こうとしたのだ。