
奈良猿沢池の傍に建つ旅館の建て替えの計画である。歴史あるこの土地で、明治に創業した旅館の別館を建て替えるに当たり、この先100年以上残り続けるホテルの在り方を考えた。 南側に中庭を取り囲むように4層の建築を配置し、1階にはロビーやレストランなどのパブリックスペース、2~4階には客室を計画している。ならまちやの通り庭と部屋、庭との関係を読み解き、これらの要素を多層化した空間の中で表現している。1階では、内外が開放的な構成の中で、土間、通り庭、部屋、裏庭といった内と外が関係性を持つ計画とした。2階から4階までの客室階では、連続した小さなスケールの空間の中で、路地(廊下)と部屋(客室)そして庭の関係を体感できる計画としている。 また地域にある自然素材や構法を現代的に表現しようと考えた。石、土、木といった異なる素材を利用し、それぞれの素材がこれまで存在した年数を想像し、素材の適材適所な利用方法を模索した。床の舗装には古石を敷き、1階の基壇となる内外の壁面には奈良の土を用いて様々な左官仕上を施している。2階から上部階の内外壁面には吉野杉の壁を計画した。更に屋根には、土を焼いた瓦で重しを置く。吉野杉による内外壁は、その配置間隔を階差数列によって決定し、これらの抽象的空間から、訪れる人々が吉野の森を想像してもらえればと考えている。構造はシンプルな鉄骨ラーメン構造であるが、1階の3か所のコア部に耐震要素を持たせることで、ロビーやレストランなどは庭と一体的につながる開放的なつくりとし、室の内外を連携して様々なアクティビティが生まれるようにと考えた。 永く続いてきた地域の伝統を現代に継承した建築を思考した。時を超えていつまでも地域のよりどころとなる「ならまち」のホテルとなることを願っている。