スパイラルガーデン

ビルディングタイプ
戸建住宅

DATA

CREDIT

  • 設計
    芦澤竜一建築設計事務所
  • 担当者
    芦澤竜一、武曽雅嗣
  • 施工
    雨松工務店
  • 構造設計
    Eureka
  • 撮影
    市川かおり

成長する土と木の家 淡路島で計画したこの家は、敷地面積約1,000m2をもつ。広大な土地全体を対象に、家と庭を同時に考えた。夫婦とふたりの子供が住むための家で、「完成された家や庭はいらない。家族全員で、家族の成長と共に考えながらつくりこんでいける家のベースをつくってほしい」との要望があった。この問いはわれわれに根源的な住居のあり方を考えさせることになった。 設計期間3年以上と長い時間を費やしたが、要望と計画は、次第に余計なものがそぎ落とされシンプルになっていった。家族4人が集うためのより原始的な建築のあり方を探っていき、丸い一室空間の平面をもち、外部との連続性、求心性をもたせるために螺旋状のプランとし、寝室、収納、水回り以外はワンルームの空間を計画した。子供がまだ小さいが、大きくなって個室がほしいといったら、どこかの庭に子供たちが望む家を自分でつくらせるという両親の考えである。大らかな建主からは、計画を通して家や庭のさまざまな可能性に気づかされた。そして家の中心部には、機能をもたない内部の庭を計画した。大きな家具も置かない直径約2.4m、高さ7.5mの吹抜け空間である。家族が普段集う台所や食堂回りからは、見通せない「無のニハ」であり、この家、そして家庭の中心的な存在である。上部には直径600mmのトップライトを設けて、日中は空間内には光の軌跡が現れる。照明を一切設けず、夜間には闇が現れる。またトップライトは、開放すると上昇気流を生み出す風洞の役割も果たす。この家の中心の「無のニハ」は、時にひとりで瞑想する空間であり、友人たちが集えば音楽を奏でる空間であり、使い方が変化する余白の空間である。常時は使われないことも多く、しかし家族や集う人びとの心を惹きつける重要な存在である。 特異な形態の建築であるが、淡路島に残る昔ながらの民家の構法を継承しようと考え、在来木造を応用して、土を多用している。螺旋を描く木構造は、中心にある円筒の柱から放射状に梁を架け、内部空間で露わとなる。3次曲面の屋根形状であるため、部材はすべて大工による手刻みで行った。内壁は、敷地周辺で採れた竹小舞を下地として淡路島の土で仕上げ、外壁も土とモルタルによる掻き落とし仕上げである。床も三和土土間で仕上げた。内部仕上げの土は蓄熱と調湿において十分な効果をもつ。 屋根面は、大地から生態が連続しながら螺旋状に上昇する、建主が育てるスパイラルガーデンとして計画した。螺旋形状の屋根は、場所によって異なる方位と高さが得られるため、日照と湿度の状態に応じてさまざまな異なる種類の植物の生育環境をつくる。さらに屋根に降り注ぐ雨水は、計画するスウェールによって、一気に流れ落ちることなく徐々に流れ落ち、すべての生物たちを潤しながらため池に導かれる。溜池の水は夏場には住宅内に冷気を送り込む。 外部空間では、敷地全体に及ぶ建主と思考したさまざまな庭が計画されている。家と庭が共に価値をもつことを前提に考え、木と土による住処をつくり、光、風、水、緑といった自然の恩恵を感じとれる家族のためのフィールドをつくろうと考えた。竣工時には、ほぼ何もない状態であったが、成長する家と庭の物語はすでに始まっている。

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