S Apartment 602

ビルディングタイプ
戸建住宅

DATA

CREDIT

  • 設計
    奥晴樹、HARUKI OKU DESIGN 家具詳細設計:YONGO CRAFT
  • 担当者
    奥晴樹 高橋淳、盛合盛(PINK)、松本哲弥(YONGO CRAFT)
  • 施工
    PINK
  • 撮影
    瀬尾憲司、HARUKI OKU DESIGN

東京 新橋駅からほど近い、築45年8階建てオフィステナントビルの一室を、居住空間へとコンバージョンするプロジェクト。クライアントはビルオーナーで、住み手はオーナーの20代息子夫婦である。 本建物は一般的なSRC造の矩形ビルで、対象となる室は約37㎡とコンパクトだ。そのため、定石通りの住戸設計では、既存躯体、配管や採光条件等により、平面レイアウトはほぼ決まってしまう。 また、周辺には商業ビルやオフィスビルが高密度に建ち並んでおり、コンクリート・鉄・樹脂等の様々な無機質で固い人工素材に溢れている。クライアントには都心で働き都心へ帰宅する生活の中で、ほっと一息のつける、穏やかで柔らかな空気感を纏った住空間が必要だと考えた。 そこで本プロジェクトでは既存の気積を最大限に活かしつつ、建物の構造体が持つある種の固さに対し、「柔らかな天井と壁」・「造作家具」・「天然素材」・「光」の4つのインテリアエレメントを丹念にスタディすることで、空間を柔らかく調律することを目指した。 【柔らかな天井と壁】 スケルトンの状態を観察すると、平面のちょうど中心部にある既存梁が空間を緩やかに分けているように感じた。まずはこの既存梁を拠り所に、リビングスペースとベッドスペースのゾーニングを行った。その上で、平面全体に緩やかな曲面を描く天井を設置し、内装壁にアールを施すことで、既存躯体のエッジの調節を図った。また、天井はあえて躯体からオフセットすることで、躯体との間に適度な余白を生み出した。この余白はそれぞれのスペースをロの字に囲むように配置され、間接照明、カーテン、空調が埋め込まれている。これにより、天井には余計なノイズが生じず、奥行きを感じる一つながりの天井は、既存梁を交差しながらも一体感のある空間を実現している。 【造作家具】 造作家具は建築空間とは同一化せずに、自立した個性を持ったものとして新たに設計した。夫婦に子どもが誕生する等、家族の成長に合わせて同一ビル内で住まいをローテーションすることや(本プロジェクトの対象は6階の一室で、7階、8階も今後オーナーの住居へと改修予定である。)、将来的に賃貸住宅として、現在の住み手以外の人が居住する可能性に対応するためである。また、ベッドスペースとリビングスペースはワンルームの奥行を妨げないように、造作家具とカーテンによって曖昧に分けた。造作家具は天井の高さまでにはせず、上部から流れ込む光が空間の奥行きを示唆している。 【天然素材】 天井、壁には自然素材由来の左官材、床には無垢のオーク材フローリング、造作家具にはシナ材を使用し、塗料も全て自然由来のものを使用している。左官材の骨材の粒径や配合は天井・壁が適度に光を吸収、反射するようにスタディし決定している。また、色彩については天井、壁がシームレスに繋がるように、天井部分は明度を上げ、壁部分は明度を下げた白色をベースに、グラデ―ショナルに変化するようコントロールした。インテリアの要素として天然素材を多く使用した上で、素地の色と落ち着つきのあるカラーパレットをベースに、住み手の生活の色が滲み出るようなニュートラルな空間を用意した。 【光】 緩やかな曲面の左官天井には自然光が効果的に拡散され、光の濃淡や陰翳が時間により刻々と変化する。また、インテリアエレメントと既存躯体との関係性や手仕事による左官仕上げのゆらぎが、光の質へと変換され空間のコンテクストとなっている。 【良好な建築ストックへの転換】 高度経済成長期前後に建設されたビルの多くは現在、設備更新・修繕時期を迎えている。単なる更新・修繕にとどまらない、事業構造の変化にも軽やかに追従出来るような改修計画が求められている。 そのような背景から、本プロジェクトは発注者・施工者・設計者が一体となり、既存建物に新たな価値を付加することでバリューアップし、都市における良好な建築ストックへと転換する試みである。 本計画により、1階にはアパレルショップ、2階から5階はオフィス、6階から8階までは住居と様々な用途・多様な都市生活を受け入れるバリエーション豊かな建物となった。 (奥晴樹 / HARUKI OKU DESIGN )

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