INTERIOR

この計画は、一枚木のL型デスクをつくりたいという施主の要望から始まった。 敷地は、港区南青山。施主は、ハイブランド企業をクライアントにしたイベント事業を営む。設立から5年が経ったころ、事業が軌道にのるタイミングをみて、一念発起してこの地に築20年のSOHOマンション一室を借りた。 仕事柄、南青山という場所にこだわりをもち、ハイブランドがもつきらびやかなイメージを大切にしていた。にも拘わらず、マンション内装は白いクロスの壁や天井、突板フローリングの床が使われた凡庸な住空間。部屋の外に広がる南青山の街の体験からは、かけ離れているように思った。部屋は賃貸で、オーナーからは解体の許可もおりなかった。 そんな状況から最初の要望にあるアイディアにたどり着いたのだろう。しかし話をしていると本当は家具だけが欲しいわけではないように感じた。 空間の装飾(一枚木)とオフィス機能の充実(L型)への思いが潜んでいる気がする。この思いを別の形で実現できないか模索させてほしいと伝えた。 ・南青山らしさの召喚 この地がもつきらびやかなイメージを、きらきらしたもの(光沢感)と変換するのは直喩すぎるだろうか。だがそれほどまでに、光沢感は南青山を着飾っているように見えている。 既存の内装に化粧をしていくかのように、大判のポリカーボネートで光沢感と色を加える。光沢の反射は部屋を映しこみ、透過する素材は色の重なりを生む。 そうして生まれた新たな表層は、あるときに奥行を与え、あるときにはそれを奪うように変化を繰り返す。 既存はそのままそこにありながら、その変化が新規との関係にブレを生み、オフィスの中に一体的に溶け込んでいく。 ・凡庸さの観察 部屋は梁型・柱型で凹凸がある。下がり天井のダウンライトや光沢のある突板フローリングなど、一見何の変哲もない箱の空間だと思っていたが、観察すると糸口が見えてきた。それを頼りに、構造体に施主の思い描くオフィス機能を当ててみる。 完全には区切らない社長室。梁型・柱型に揃えた収納。収納スペースと、web会議ができるブース。大きい天板と棚板、そしてとにかく広いテラスまで続くデッキ床。そうして既存輪郭線の内側をトレースするような構造体が建てられていく。結果として、より単純な平面計画が生まれた。 --- 構造体は鉄で、材の全てが連結することで剛性の高さを得る。 鉄は強固で重い。だから、既存に接続することが出来なくても、置くだけで事足りる。現にここでは、基礎のように角パイプを敷き、そこに柱を建て、横架材でサッシ枠を組み置いただけとなる。 一枚木のL型デスクという素材の質に装飾的価値を見出した施主のアイディアは、鉄だからこそ実現するプロポーションという装飾的価値に姿を変えて、部屋全体に拡張していく。 なぜここまで、鉄の強度に拘ったのか。それは、施主がこのマンション一室を借りてやっていこうという、決意の強度に触れたからかと思う。 解体できないからとどこにいっても置けるような家具を選ぶのではなく、 解体できないことを含んだこの場の全ての情報を組み込んだ、強いインテリアをつくることを選んだ。

クレジット

  • 設計
    ARCHIDIVISION/塩入勇生+矢﨑亮大
  • 担当者
    塩入勇生、矢﨑亮大
  • 施工
    THモリオカ
  • 撮影
    中島悠二

データ