たなか邸

ビルディングタイプ
戸建住宅

DATA

CREDIT

  • 設計
    伊藤憲吾建築設計事務所
  • 担当者
    伊藤憲吾建築設計事務所
  • 施工
    朝来野工務店
  • 構造設計
    きいぷらん
  • 撮影
    衛藤フミオ

大分市中心地に建つ住宅である。大分駅南側に位置し、近年再開発により大きく変貌を遂げた地域である。敷地は元より施主の祖父母が住んでいた敷地であり、比較的密集した住宅地である。 この建築の成り立ちは施主家族のライフスタイルに尽きる。施主のたなかさんとは友人として付き合いだして長くなった。彼はデザイナーとして地域に溶け込み愛され活動をしている。震災復興活動や街を想う活動なども取り組んでいる。その彼が住宅設計を依頼してくれ、施主の生き方に応えるだけでこの建築は成立している。 この建築には3つのテーマがある。 まず「災害に対しての構成」である。近年、地震、津波、水害、火災と様々な災害が起こり、私たちの生活に不安を与えている。ここに住んでいたご家族の意見により津波等の浸水時に対応することが求められた。熊本大分震災を経験し、南海トラフ地震の危険性を敏感に感じ取ってのことである。ハザードマップでも浸水の可能性は確認できた。当初はRC造の可能性も示唆されたが、コスト等の懸念より木造にすることになった。浸水時の対応として高基礎とし現代版の高床式住居の様相となっている。これは施主が水害の泥出しボランティアを経験したことにも起因している。床の高さが上がることに対してスキップフロアとして上下階への移動を気軽にできるようにしている。お庭に築山を設けて地上へアクセスを楽しいものとした。就寝時の災害に考慮するために寝室は最上階に配置している。そして密集した地域であるために火災に対しての対策を図った。準防火地域に指定されているため法的に延焼の範囲が発生するが、隣接地から距離を確保することで基本的な延焼防止の対応とした。距離を取ることで生まれた空地をお庭や駐車場としている。屋外空間を近隣と享受することになり、近隣の方も日常的な採光性が得やすくなっている。明るい街へとつながった。災害対応が空間構成と都市景観に応える構成となった。 次に「環境に対しての構造」についてである。構造材は全て杉材としている。一般的に梁材には米松などが使われることが多いが、設計時にウッドショックと呼ばれる状態が起き外国産材の材料供給に懸念があった。国産木材の活用は叫ばれて久しいが、このタイミングで全ての構造材を国産材にすることに挑んだ。全体の構造計画は北側に袖壁上の耐震壁を集中させることにしている。これは耐力壁を合理性高く配置することでスケルトンインフィルを明確にし、空間の自由度を上げるためだ。最も課題となったのは梁の強度についてである。構造検討をすると杉材による梁せいは330㎜を越えるものが必要となったが、国産の杉材では240㎜以上は流通が少なく、資材確保は容易ではない。梁を二本抱かせることで応力を分散し、240㎜の梁せいに抑えることが可能となった。九州内の近隣木材を使うことで輸送エネルギーを抑えることになる。加えて、外張断熱を採用することで躯体保護を行うことにしている。環境配慮の為の地域産材の活用を現在の構造技術により叶えることができた。 最後は「まちに対しての姿勢」である。1階に作業場と呼ぶ室を設けている。ここは施主が自身の仕事をする場所でもある。近隣に対して大きく開くかたちとしている。法的に「延焼の恐れのある範囲」から外れるように配置しているので外装は木質化でき、グランドレベルに木材の優しい表情を表すことができた。大きく開いた開口部は子供が遊ぶ姿を仕事をしながら見守ることができる。防犯対策や近隣コミュニケーションの希薄さにより閉じがちな住宅の表情だが、この建築はとても朗らかな表情となったように思う。それは施主自身の朗らかの表情ともつながっているように感じる。まちは建築で出来ている。人の顔が見える景観に寄与できたと感じている。 災害の恐れに応え、環境問題に向き合い、都市空間に寄与する、未来に向けた建築であり、住まい手らしい住宅がこの場所に生まれた。

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