
PROJECT MEMBER
■地域の医療拠点、「セカンド・リビング」としての診療所 この建築は、横浜みなとみらい21地区を見渡す掃部山(かもんやま)の麓に位置し、見通しの良い登り坂に正対する。敷地は旧横浜道から1ブロック入った雑居ビルと小住宅が密集する一画で、狭い間口から奥に広がるタコツボ状の地型である。 幕末に栄えた旧横浜道周辺は、その後の埋立てによりウォーターフロントが移動したことで、中心市街地としての役割を失った。敷地周辺では、新たに宅地化が進んでいるが、街並を形成する個々の住宅は閉鎖的な佇まいで、都市空間としては個室化した印象を受ける。 こうした都市の密集地、建築条件が厳しい敷地の診療所を最大限木質化した。地域の医療拠点として人々の生活空間にリンクした『セカンド・リビング』ともなる場所をイメージしたことによる。街並を覗く間口から、ひときわ奥行の深い『木のワンルーム空間』が見通せるようファサードにガラスの大開口を設け、2層の待合空間では、一般患者用の下階に対し、上階を小児患者用と位置付け、図書コーナーや遊び場を見守りソファやデスクが囲う構成とした。こうした試みは待合での予防健診や講習会に子連れで参加できる機会を生み、診療所の新しい役割を創出すると考えている。 加えて、地域社会と建築の親和性を考慮し、内装の手摺子やルーバー状の間仕切、ファサードの木塀などに、かつて宿場町の景観を形成した木格子の援用を試みた。子供でも手が触れる高さに用いた三和土や土壁といった素材もこの延長上にある。 発熱外来受入の可否やオンライン診療、訪問診療など、コロナ禍を経て診療スタイルが多様化するなか、診療所に対する社会性や地域性、情報拠点としてのニーズの高まりを感じた。そしてまず、この第一歩として『開かれた診療所』を目指した。