
PROJECT MEMBER
東京都心部、作家に所縁の深い土地に建つ木造戸建住宅。施主は新進気鋭の作家である。求められたのは、作家の仕事が家の中で完結できること。外に開きすぎないコンパクトな住まいであること。何よりも、創作へのインスピレーションを与えてくれる空間が求められた。「日常から数cm浮いているような建築」をつくりたい、と思った。あくまで具体的な日常と接続しつつも、どこかフィクショナルな物語性が介在する、そんな住まいの在り方を目指した。 前面道路に面する西側は、大地が大きくめくれ上がるイメージで、曲面耐震壁を立ち上げ、耐震壁をくり抜くかたちでトンネル状のアプローチを配置。日常から非日常に一歩足を踏み入れる、映画のワンシーンのような導入とする意図である。奥に細長い敷地を最大限活かす目的で、東側を三層・西側を二層とし、極端な高低を与えた。北側には間口1.2m・最大高さ5.5mの光庭を挿入。他の開口部は可能な限り減らし、家中をアメーバ状に拡がるヴォイドに対して明暗のコントラストを与えた。そこに階段を一直線に通すことで、高低・明暗の利いたヴォイドの中を突っ切っていく、身体的ストーリーのある立体構成とした。 現代作家のライフスタイルもコロナ禍を経て大きく変化した。現代作家にとって、自邸は打合せの場であり、メディア露出の際の撮影スタジオも兼ねており、それぞれにあったプライベート / パブリックの濃淡が求められる。コンパクトな住まいの中で、繊細な場所の使い分けを可能にする”溜まり”を、ヴォイドの設計によって提供することを意図した。合理性を突き詰めて考えつつも、大らかな物語性を内包する建築をつくっていきたいと考えている。