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「まちのような美容室」 東京都渋谷区神宮前にある3階建てマンションの1階を改修した美容室である。美容室の拡張を考えていたクライアントは、現美容室の向かいのビルに空き室がでたため、約30㎡の小さなスペースを借りることにした。大きなテナントに引っ越すのではなく、通りを挟んだ向かいに新店舗をつくることで、美容師たちの1日は閉じられた建物の中にとどまらず、通りを介した行き来の度にまちに開かれる。 表通りとつながるように、自然のランドスケープのようなおおらかなかたちの鏡を部屋にぐるりとまわすことにした。鏡には、カットイスに座っている時、待合にいる時、シャンプーをしている時など、美容室に来てから帰るまでの一つの体験の中で、まちの風景や美容室での多様な活動が一体となって現れる。 さまざまな柔らかな曲率を持った鏡。上半身だけが映ったり、足元だけが映ったり、通りに人が横切ったり、他のお客さんの後ろ姿が前に見えたり、鏡に映る鏡のその奥の風景が見えたり、ずっと自分が鏡の奥まで反復されて映っていたりする。 境界のないカットスペース。一人で全ての鏡を占有しているような、隣でカットしている人と大きな空間を共有しているような、自分の後ろ姿が遠くに見えたりする。 明るいシャンプー台。横になると、左には通りに開いた大きな窓、右には鏡に映る通りの風景が見える。目を瞑ってもうっすら明るいまぶたの奥、シャンプーの後に目を開けた時の光の眩しさ。 大きな入り口ドア。通りからでも鏡が見え、美容室からも通りが見え、風が時折ふわっと入ってくる。 宙に浮いたような小物置き。脚のあるクローク。既存建物のままの床や天井。 バラバラなものも、似たようなものも、色々なものが一緒にそこにあることが自然に感じられる「まちのような美容室」を目指した。〈南俊允〉