
DATA
- ビルディングタイプ
- その他オフィス・企業施設
- 構造
- 鉄骨造
- 工事種別
- 新築
- 延べ床面積
- 1719.99㎡
- 竣工
- 2018-12
CREDIT
- 設計
- 芦澤竜一建築設計事務所
- 担当者
- 芦澤竜一、川井絵里奈、武曽雅嗣(芦澤竜一建築設計事務所)
- 施工
- ㈱大和建設
- 撮影
- 市川かおり
兵庫県西宮市内の駅前、国道と県道の角地に立地する3つのブランドのイタリア車(アルファロメオ、フィアット、アバルト)のショールームの計画である。土地は40年間の定地借地権で期間を限定した建築を求められた。十字路である角地は、古くから「辻」と呼ばれ、様々な人々が行き交い、出会いがある場所である。また辻は現世と来世との境界であるという説があり、妖怪である辻神(魔物)が住み着きやすいとされ、古来魔除けや地域の守り神として道祖神が祀られ、自然石や石碑などが置かれてきた。この類の民間信仰は、現在資本主義社会によって支配される日本の都市空間においてはほぼ消えつつある。 そして自動車は、社会が近代化において、人々の行動や生活を大きく変えた道具である。敷地がある国道には外国車、国産車のショールームが点在し、他にも商業施設や集合住宅などが建ち並ぶ日本の資本主義都市の典型的なロードサイドの風景が続く。しかしこの資本主義も一時の現象と捉えるならば、時空をつなぐ辻に妖怪或いは守り神のような存在感を現し、近代社会を象徴する「自動車」のお化けのような建築のふるまいを思考した。 自動車の美しいボディのほとんどは0.6~1mmの薄鋼板をプレス成形して卵の殻の様にモノコック構造としてボディとシャーシが一体化してつくられる。そこには軽さと強靭さを求めた機能的な美学が存在する。この構造システムを建築として化かすことを考え、結果大通りに面する3面を3.2mmの鉄板がしなやかに曲面を描くような外観を考案した。車のボディはプレス成形されたパネルを部分溶接して接合部がわかるようにつくられるが、この建築では、鉄板がシームレスに見えるよう全ての鋼板の接合部を全溶接した上で断熱塗料を施し、一枚の面に見えるように計画している。見る角度によって表情は変化する。また交差点がある北東の角地は外壁ラインを大きくセットバックし、人々が行き交い、滞留できる街のオープンスペースをつくり、辻という場の性格を尊重した。階構成としては、1,2階は高さ5mの吹抜けを持つアルファロメオのショールームを配置している。3階には、フィアットとアバルトの2つのブランドのショールーム、4階と屋上階に車庫を配置している。各階の平面構成は、必要な諸機能を南側にまとめて配置し、北面、東面の2方向の道路に面する範囲を大きなワンルームの空間をつくっている。1,2階は外部から室内への視認性を極力上げ、駐車場の入口も設けるため、壁や柱が極力現れない計画とした。また鉄板のみの構造とすることを当初考えたが、耐火建築のため鉄板の耐火仕様が現行法規では認められていないため、4本のアーチ状の鋼管柱を主構造として、鉄骨柱によって繋げられた3,4階2層のヴォリュームがダイナミックに大地から浮遊する形態を考えた。これらの4本の曲がりうねった鋼管の柱は内部空間に現れ、建築を形成している骨格を来訪者に感じさせる。また3,4階に展示、格納される車の存在が、都市空間の中で車の運転者からも視認されるように、鋼管柱の間の鉄板には大小様々なパノラマ形状の開口を設けている。それらの形状は画一的な矩形窓ではなく、鋼管アーチ柱の軌跡を縫うように滑らかで妖しげな曲線を描く。 イタリア車は、日本車の様に単に機能性を追求した車ではない。美しさや艶やかさを伴い、時に奇異に見える生き物のような存在と感じる。そのような車を展示する場所は、合理性のみを追求した建築ではなく、生命力を持ち、多彩な表情を持つ建築が相応しいと考える。合理性を追求してきた現代都市は、自然を侵食し、日本古来のアミニズムそして妖怪といった非科学的な存在を排除をしてきたわけだが、今一度妖怪のような存在が必要なのではないかと考えている。