シェア型レジデンス花園

 日本における観光ビジネスに関心をもった、中国武漢でホテル業を営む施主が計画する宿泊施設である。敷地は大阪の四つ橋線花園町駅から徒歩5分、低価格の宿泊施設や民宿でも知られる西成区に位置する。古い長屋が残るこの地域は、中心地の難波から2駅の利便性と比較的安価な地価から街の更新が進み、日常的な対話の場であった路地や低層の長屋が木造3階建アパートや中層マンションに変わり、閉じた環境をつくっている。本計画では、ホテルのようにプライバシーは確保しながら、シェアハウスのように共用部を選択的に利用できる、新しい宿泊施設「シェア型レジデンス」を築くことで、まちとのつながりを考える。  周囲にあわせて高さは2層に抑え、リニアなボリュームをCの字型に折り畳むことで、落ちついた中庭を形づくる。2階の個室にはそれぞれ勾配屋根をかけ、全体を小さな個室の集合体として表現した。小屋根が連続する集合体としての佇まいが、大小スケールの建物が混在する街並みと調和し、ヒューマンスケールなまちの風景のゆるやかな継承を心掛けた。各個室は中庭を介して様々な方位から採光ができ、最大限の個室数を確保した。個室ごとに寝室、キッチン、バスルーム、トイレが備えられプライバシーを確保する一方、通りに面した「まちのリビング」、2階の通路を拡張した「ランドリーテラス」、自然を感じられる「まちのテラス」が、対話を誘発する共用空間となり、地域に対しても開かれている。  個室は全て、周囲への開き方に応じてレイアウトが異なり、多様な選択性をもたらしている。内部は木目調や左官調の現代的な和風を基調としており、障子戸の開閉により外部との関係をコントロールし、プライバシーを確保する。障子を介して柔らかい光が差し込む落ち着いた空間となっている。1階の個室は畳敷きで、中庭や道に面して掃き出し窓が設けられた開放的な空間である。2階の個室は、屋根の形状が内部に勾配天井として現れる特徴的な空間である。一部の個室には屋上テラスがあり、屋外の居間として利用が可能である。各個室は機能的でコンパクトなレイアウトながらも、共用空間を自分の居場所として考えることで私的領域が拡大する。  都市的環境にある「シェア型レジデンス」が、プライバシーとコモンスペースを両立し、閉鎖的環境をつくる開発ではなく共用空間を介して街と共存する、新しい宿泊施設のかたちとなることを期待する。

クレジット

  • 設計
    T2Pアーキテクツ
  • 担当者
    小野龍人、三浦朋訓、Yang Shikwan
  • 施工
    89STYLE
  • 構造設計
    玉木建築設計事務所
  • 撮影
    河田弘樹
  • 設備設計
    シー・エイチ・シー・システム
  • 外構
    FADE・IN
  • 電気設備
    植田電気、太田電気
  • 空調・衛生設備
    志設備工業

データ