Ani-house

建築主兼現場監督である若きクライアントとともに設計監理を進めたプロジェクト。平面計画・断面計画および素材やディテール設計までクライアントが行い、それを実現するためのエンジニア的・意匠的なサポート及びクライアントの提案に対するエスキースチェックに徹するというプロセスで設計監理を行った。 無駄の無い動線計画・大きなリビングという明快な空間ダイアグラムにより構成された平面を、ガルバリウム製の切妻型外皮で包んだ30坪に満たない平屋建ての住宅である。ダイニングテーブルを兼ねた大きなキッチンカウンターのあるリビングダイニングとプライベートな個室群を、棟木を軸として対称配置することでそれぞれの空間は片流れで気積の大きな空間となっている。 玄関前まで伸びる深い軒下空間は木質外壁を守る庇の役割を果たしつつ、玄関として人を迎え入れ滞留させることも、ピロティとして利用もできる自由なスペースとなっており、クライアントの住みこなしに委ねられた特定の用途がない空間となっている。 住宅の形式はもとよりプライバシーの概念もかつての姿とは形を変えながらも、それでも人が家に集まるコミュニティを手放すことはしなかった奄美大島である。 近年の屋内での密集を避ける流れには抗うことができない時代だからこそ、外で集まる事ができる空間を住宅に設けることは重要である。雨が多い気候から考えると、そこには屋根が有る方が良いが、集まり方を制限するような単機能の空間であってはならないと考える。 この住宅では、本体の切妻型のボリュームを延長することで軒下空間を作り出すことに挑戦した。 この深い軒を支える両袖壁はスラストを抑えるために高基礎を採用し、純粋な幾何としての切妻を実現している。 クライアントにとって、これまで現場監督として積んできた経験の集大成的な建築であり、素材・ディテールともに質および難易度の高い施工がなされた。シンプルな構成ながら、ハゼの割付、雨樋や建具、巾木の納まりに至るまで、あらゆる点において施工図+モックアップによる検討の上で施工に至っている。さらには棟梁を務めたのがクライアントの実弟にあたり、家族で営んできた工務店にとっての集大成でもあるのだ。 住宅のタイトルとしてつけた『Ani-house』であるが、島では『Ani(アニ・兄)』とは血の繋がりが無い年長者に対しても敬意をもって使われる言葉である。実の弟である棟梁にとっての『兄の家』というだけでなく、クライアント本人が技術者として一人前の『兄』であるという宣言でもあるのだろう。 住宅とは本来、このように強い想いを持って立ち向かってしかるべき、というメッセージを強く感じたプロジェクトであった。

クレジット

  • 設計
    愛建工業+小野良輔建築設計事務所
  • 施工
    愛建工業
  • 構造設計
    円酒構造設計
  • 撮影
    長谷川健太

データ