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ツナグ・モノリス ■築45年の診療所併用住宅と地域の街並や環境を維持する建築装置 本計画は築45年のRC造、診療所併用住宅におけるエレベーター棟(以後、EV棟)の増築計画である。 既存母屋は約720㎡の敷地に建つ3階建で、1階が診療所、2・3階が住宅で、竣工は新耐震基準前の1977年だった。 EV棟は、母屋で暮らす建主の高齢化対策として新設され、敷地は診療所のエントランスに設けられた植栽スペースを利用した。また、EV棟の構造は既存不適格な母屋から分離して自立させ、外観は母屋と同化しないようにスレートを下見板張りして“石柱”のような表情を造り、非建築的なスケール感を強調した。対して棟の内部は、床材や壁の色調、天井仕上げを上下階で区別し、移動の度に場面が切り替わるようになっている。 オブジェでなく、EV棟としての存在意義を持つ建築装置であるから、過剰な形態操作は抑え、母屋との隙間に既存建築だけでは予期できない空間を生み出すこと考えた。例えば、1階診療所の待合にある大窓から見るEV棟を背景に緑と置石を配した坪庭や、周辺建物の高層化でプライバシーを損なった2階ベランダがEV棟と新設した庇により中庭のような場所に再生されたこと、木目調タイルのベランダ床材をエレベーターホールまで連続させることで母屋食堂の空間領域を屋外に拡張させたことなどがその成果だろう。 この診療所併用住宅は、国道から続く近隣商業地域内を約150m入った賃貸住宅が雑居する場所にある。最寄りの京急線金沢八景駅は2021年までに駅舎と駅周辺が再開発されて様変りし、今も近隣で公営マンションの建設が進む。 東日本大震災以降、1981(昭和56)年の新耐震基準施行前に建てられたRC造の診療所や併用住宅に関する相談が増えた。単に耐震の問題だけでなく、医師の代替りや高齢化といったライフステージの変化が見直しを後押しした。除去費用が高額なこともあり、多くは既存建築を活用した増改築に落ち着いたが、SDGSの観点からも積極的な方向性だし、本計画のような地域開発が進む場所で、低層建築が建つ広めの土地が緑化した状態で維持されることは、街並景観や環境保全の観点からも意義深いことと考えている。 映画「2001年宇宙の旅」の冒頭で、原始時代の地球に現れた謎の石柱と共鳴した人類が“道具”を創造するシーンがある。「モノリス」と呼ばれるこの石柱同様、母屋と共鳴して新しい“空間”を創造すると同時に、地域に対して街並や環境を維持する装置になって欲しい。