
PROJECT MEMBER
飲食店であった木造2階建店舗の一階部分を、カラーリング専門の美容室へ改修したプロジェクトである。 設計時期は、新型コロナウィルスの影響で「ソーシャルディスタンス」が求められたタイミングであった。 その影響もあって建築主からは、利用者通しの距離を保つことができる「半個室」がキーワードとしてあがった。 加えて、美容室内全体を、時にギャラリーとして使用できるような空間構成も求められた。 建物1階部分の延床面積は、約42㎡。 決して広くはない空間に、美容室の各機能を満足させながら半個室を実現し、かつ広がりを認知させる方法を模索した。 小さなセットスペース(セット面)を、距離を保ちながら千鳥に配置。それぞれを廊下空間で繋げ、小さなひとつながりの入り組み空間を作った。 入り組み空間は、エントランスから繋がる1室のメインスペースである。 シャンプースペースやバックスペース、メイクブース等は、サブスペースという位置付けをした。 メインスペースとサブスペースは、レースカーテンで仕切ることで、光や気配を透過する「繊細な境界」とした。 入り組み空間(メインスペース)は、天井高さや床のレベルをぞれぞれ変えた。 設備的な制約をクリアするための操作だが、空間に複雑性を与え、入り組みの認知に大きく寄与している。 店舗入口位置からはメインスペース全体を把握することはできない。奥に行くにつれ、それぞれのセットスペースが左右交互に現れる。 各セットスペースには、鏡による虚像の「その先」がある。鏡はそれぞれの空間の天井高さに合わせ、「その先」をより効果的に表現する工夫を行なった。 平面計画を見ると、狭さや各スペースの小ささが際立つ。 しかし、実空間においては、「全体を把握できない平面構成」と「鏡による疑似的な広がり」により、実際の大きさ以上の広がりを感じる。 入り組みの構成は、空間を構築するサーフェス(表層)の面積増大を意味する。本プロジェクトでは、主に壁面積にあたる。 増えた壁は、ギャラリーとして使用する際、展示用の壁として有効に機能する。 新たに2階へ上がるための階段も刷新している。面で構成した手すりに、乱幅のラワン合板仕上げとした。 入口に吹き抜けを新規に設けることで、自然光が室内に届くように計画した。 カラーリングに特化した美容室のため、空間的な色調は、白を主として、アルミやラワン合板といった素材の色を採用している。 「小さな入り組みの空間構成」は、42㎡の小空間に、「半個室」と「広がり」を共存させることを可能にした。 そして、美容室とギャラリーに向けた、最適な空間構成を実現できたと考えている。