
PROJECT MEMBER
長い歴史を持つ旅館が、新潟県湯沢町苗場エリアにある。 参勤交代のあった時代、本陣(宿舎のこと)として使用されていた宿泊施設は、増改築を繰り返し、400年経った現在も、旅館「御宿本陣」の名で生き永らえている。 本プロジェクトは、新型コロナウィルスの影響で需要が激減した御宿本陣3階宴会場を、収益が見込める特別室へ改修するものである。 長い歴史の中で増改築を繰り返した結果、現在の本館は、外庭を囲むようにL字型の平面形をしている。 改修対象の宴会場は、北東と南東に延びるL字平面の北東側3階(最上階)に位置する。 現場視察にて、客室の開口予定位置から外庭を眺めた際、南東側の建物の存在が妙に気になった。 建物が内角85°のL字型の平面形のため、北東側から外庭を見た時、南東側の外壁が5°こちらに傾いて見えてくることが原因だった。 そこで、南東側と並行になるように、新規客室を北東側既存平面形に対して5°傾ける計画とした。 このわずかな操作により、客室から外庭を見た時、南東側の外壁を気にすることなく、四季折々の風景を楽しむ事ができると考えた。 既存の柱と開口位置を考慮し、4つの客室とすることが、建築計画と事業計画の観点から最適であった。 四季の語句「雪月風花」をコンセプトに掲げ、4つの客室それぞれにテーマカラーを設定し、四季を表現した。 客室は、入口側から「食事スペース(15㎡)」、「寝室スペース(16㎡)」、「浴室スペース(12㎡)」の大きく3つのスペースで構成している。それぞれのスペースは建具で仕切られるが、それらを解放し、ひと繋がりの空間とすることもできる。 「食事スペース」は、ダイニングとミニバーコーナーで構成。将来の部屋食提供を見越し、十分な広さを確保した。 「寝室スペース」は、リビングと寝室を兼ねた構成とした。ソファ背後の意匠壁は、客室ごとのテーマカラーに染色したオーク材の乱幅縦鎧張りとしている。 「浴室スペース」は、洗面室と浴室、シャワー室で構成。バルコニー側のサッシを解放することで、半露天風呂となる。 足し算的な装飾による空間演出は一切行わず、造作家具や建具、照明といった必要な要素のあり方を緻密にデザインすることで、特別な客室を体現した。