出窓の塔居

四位一体の振る舞いが心地良さを生む居場所 新旧の街並みが混在する都心の狭小地に、自邸兼事務所を設計した。駅前で、様々な用途になり得る可能性のある場所なので、家でなく居場所をつくるべきだと考えた。自分たちの手を離れた後、用途や持ち主が変わっても生き続けられる、居心地の良い居場所である。 居場所をつくる手法として、空間そのものを構築するのではなく、何気ない人の振る舞いの一つ一つを意識的に具現化し、空間が立ち上がることを試みた。そこで用いた形式が出窓である。日本における出窓の法令上の寸法体系が家具的であることに着目した。出幅は500mmまで、床面からの立ち上がりは300mm以上、天井面から窓の上枠が立ち下がっているという基準があり、用途が生じない場合は容積不算入でもある。出窓を家具的に扱い、階ごとに全周ぐるりと巻き付け積層することで、建物の周囲に家具的境界を作った。座る、寝転ぶ、手を洗う、料理する、入浴する、物を書くなど日常の様々な振る舞いが出窓と共にある。 また、狭小地の宿命として、新たに建物を建築すると、隣家の窓前に壁が立ち、息苦しい思いをさせてしまう。隣家にも居心地の良さをもたらす形態とはどうあるべきかを考えた。建物の角を45度で落とし敷地の四隅に空地のポケットをつくることで、隣家の窓の振る舞いも確保し光と風を享受できるようにした。八角形の建物形状は、通常の矩形の建物と比べて周囲の風環境への悪影響が小さいこともシミュレーションによって確認した。 さらに、居心地の良い場所を作るために、シミュレーションにて周囲も含めた微気候の振る舞いを観察すると、採光のための光窓、通風のための風窓、熱も風も遮ったほうがよい壁窓、3つの出窓の状態が浮かび上がってきた。3種の窓を光・風・熱の条件が最も効果的になるように配置をしたが、それでも真夏や真冬は、熱負荷が大きくなってしまう部位があるため、外装材には軽量で断熱性が高く、吸音性もあり不朽もしない炭化コルクにて外断熱を行い、熱負荷を低減することとした。  外壁に用いた炭化コルクは、生成時にはコルクガシの樹皮をプレスプレスすることで滲み出る樹液で固まるため、化学物質を用いない環境配慮素材である。かつては冷蔵庫の断熱材などで国内でも生産されていたが、現在は国内に生産メーカーはなく海外から輸入した。現在、国内コルクメーカーと再生産に向けた検討を行っており、この建築をきっかけに再生産の流れが加速され、地球環境に貢献できることを期待している。 構造については鉄骨造とし、鉛直力と地震力を分解し、地震力は出窓のフレームにすべて負担させている。平面的にも断面的にも多面体であることで、ある面を全面開口としても、向かい合う面が平行ではないことで偏心を抑えることができ、3つの出窓の配置に自由な振る舞いを与えている。 建築の寿命は、本来人間の寿命より長い。長生きするならば、経年変化がその建築の魅力になってほしい。そこで、極力経年変化し、日々様々な表情を見せる素材を用いることとした。炭化コルクは次第に色が抜け、角が取れて丸みを帯びていく。多孔質なのでどこかから飛んできた種子が着床し芽吹くかもしれない。内装は木を主体とし、雲母の入った左官の壁、鉄部の塗装も同じく雲母が入っているフェロドール塗装によって、経年で鈍く輝くようになっていく。この街並みの一員として生き続ける建築をつくりたいと考えた。 人の振る舞い、微気候の振る舞い、構造の振る舞い、そして隣家の窓の振る舞いが四位一体となり作られた居心地の良い出窓の塔居である。 (藤貴彰+藤悠子)

クレジット

  • 設計
    藤貴彰+藤悠子
  • 担当者
    藤貴彰、藤悠子
  • 施工
    渡辺富工務店
  • 構造設計
    川田 知典(川田知典構造設計)
  • 撮影
    Masao Nishikawa、Shohei Yokoyama

データ