まつたかパン

埼玉県和光市の駅からほど近い集合住宅の1階テナント区画に位置する、テイクアウト専門の小さなパン屋の内装計画である。 既存建築物は、上下振動音に配慮し、1階をコンクリート造、2・3階をメゾネット型の木造とした、特徴のある構造形式をもつ。また、テナントの面する通りは、これまで私有地でありながら、地域のために公園として開放されてきた歴史があり、それは、集合住宅の建設後も自由に通り抜けることができる緑豊かな「小路」として受け継がれ、住人だけではなく、地域にとっても魅力的な環境を形成している。 この、住人や地域への想いが込められた「小路」の日々の往来が、より心地よいものになるような、商いの場所を生み出したいと考えた。 平面レイアウトは、クライアントからの要望通り、手前に売場を、奥に工房を、素直に配置した。店舗のメインとなる売り場スペースは、テナント正面がガラス張りであることを利用し、もうひとつの「ファサード」を店舗内へ新たに作り出した。既存のサッシ枠から引き出された補助線を頼りに垂木を組み、特徴ある構造をマテリアルとして内装の仕上げに置き換え、無機質なモルタルと温かみのあるラワンによって面を設えた。また、ショーケースやカウンターも一体的に組み込み、その上には、クライアントからの要望にあった「のれん」を、アイコニックに掛け渡した。 新たに作り出された「ファサード」は、建築でありながら、家具的なスケールの屋台的な佇まいによって、誰もが親しみやすさを感じる「まちのパン屋」としての身近な雰囲気を醸し出している。「ファサード」を介した日々の商いが、パンの香りとともに「小路」へ移ろい漂い、魅力溢れる住環境へ溶け込みながら、住人や地域の日常にそっと寄り添うような場所となることを願っている。

クレジット

  • 設計
    StA
  • 担当者
    須谷悠希
  • 施工
    萬美堂
  • 撮影
    本吉孝光

データ