
補足資料








PROJECT MEMBER
空間とパンが織りなす風景 仙台市内の小さなパン屋が、成長に伴い新しい店舗に移転するプロジェクトである。本計画では、単なる売場の拡張にとどまらず、パンの魅力や製造過程を可視化し、街路との対話を重視した空間構成を試みた。「黄金比」を意識した寸法や比率を織り込み、パン屋という商業施設でありながら、美的な空間体験を提供することを目的としている。 入れ子状のハコによるゾーニング 広大な倉庫のような既存空間の中央に、「入れ子状のハコ」を配置することで、売場・作業場・厨房の三つのパートに明確に分けた。売場は来店者に開かれ、厨房は作業の舞台として機能し、双方の間に適度な距離と視覚的つながりを保つ。 床のコンクリート削り出しや天井の鉄骨塗装によって、既存倉庫の粗さや無骨さを残しつつ、ミニマルな魅力を引き出すことで、素材の質感と空間の静けさが調和する。 ファサードと視覚的レイヤー 売場背後には、古い赤レンガやstained glass Ginga のビンテージガラスを使ったステンドグラスを用いた新たなファサードを設けた。無機質なステンレス厨房との対比により、空間に深みと層構造が生まれる。外部からは、多層のレイヤーが重なり合うように見え、街路との対話を生むデザインになっている。 カウンターのデザインと機能性 メインカウンターはモルタルの塊が浮かんだような造形で、視覚的なアクセントとなる。天板には小さな穴を開けたステンレスを使用し、パンの粗熱を効率的に逃すことで、焼きたての美味しさを保つ機能を持たせた。この「機能と美の両立」は、空間全体の設計思想を象徴している。 パンは単に商品として陳列されるだけでなく、道沿いから作業風景やパンを手に取る動作が見えるように配置され、街路に向けての演出としても機能する。 夜の特別な時間 — レシオナイト 昼間はテイクアウト中心のパン屋であるが、定休日の夜には「レシオナイト」と称した特別な時間を設定した。昼の賑わいとは異なり、カウンター席で焼きたてのパンをゆったりと味わうバーのような空間が生まれる。 古レンガには間接照明を柔らかく当て、7mあるパンチングカウンターはランタンの置かれたバースタイルに変化する。普段裏方であるステンレス厨房は、表裏が反転し、光に照らされることで職人の動きが舞台のように見える。忙しい日常では味わえない、パンの美味しさや作り手のこだわりを体験できる特別な場となった。 「BAKERY GOLDEN RATIO」は、パンの美味しさを最大限に引き立てる空間設計の実践である。素材と光、構造のレイヤー、視覚的黄金比、そして時間帯による異なる演出が重なり合い、訪れる者にパンと建築の魅力を同時に体験させる。パン屋でありながら、街路との対話を持つ風景として、日常に小さな贅沢と心地よい驚きを提供する空間である。