豊かなランドスケープと建築が混ざり合い、その上に緩やかなL型の大屋根が浮かぶように架かる、伸びやかな住宅です。
場所 — 地形が与える命題
敷地は仙台市中心部から北へ約3km、七北田丘陵の尾根沿いにあります。西側には丘陵地が広がり、遠くの山並みまで見渡せる場所です。
約80坪の比較的大きな敷地ですが、西へ向かって1〜2mほど段々に下がる地形となっており、二辺を道路に接しています。北側には解体が必要な既存擁壁と狭い道路があり、敷地には車が乗り入れられない状態でした。そのため、駐車場へのアプローチをどう確保するか、既存擁壁をどう処理するかが、最初の課題となりました。
一方、西側の隣地には平屋の住宅がありますが、そこから1.5mほど視線を上げると、その屋根を越えて丘陵地の地平線まで眺望が広がります。
この「視線の先にある風景」を、どのように日々の暮らしへ取り込むか。
そして、敷地にもともとある段差を単なる問題として平らにするのではなく、建築の中に取り込み、空間の豊かさへと変えていくこと。この二つを、設計の大きなテーマとしました。
ランドスケープと建築の融合
この住宅で大切にしたのは、建築だけで敷地をつくり込むのではなく、庭や地形と建築をひとつの風景として考えることです。
敷地の高低差をすべて平らにするのではなく、その段差を室内にも取り込み、床の高さが少しずつ変化するスキップフロアとしました。もともとの地形を生かすことで、場所ごとに異なる高さや視線が生まれます。
また、敷地いっぱいに建物を建てるのではなく、多くの部分を庭として残しました。建築を主役にするのではなく、庭と建築が一緒になって、この場所の風景をつくることを考えています。
道路に面する東側は高さを抑え、西へ向かうにつれて、緩やかなL型の大屋根が大きく開いていきます。その屋根の下から、庭、その先の丘陵地、さらに遠くの山並みへと視線がつながります。
大きな屋根が庭の緑や遠くの地平線と水平に重なることで、建築そのものも風景の一部となっていく。室内から風景を「眺める」だけではなく、日々の暮らしそのものが風景とつながる住宅を目指しました。
配置とプロポーション(外部との関係)
道路に近い北東側に駐車場を確保し、建物は敷地の反対側となる南西側に、細長いL型で配置しました。
道路側の建物は低く抑え、周囲に対する圧迫感を小さくしています。一方、屋根は西へ向かって大きく伸ばし、その先に広がる風景へと視線を導いています。
北側にあった既存擁壁は撤去し、その跡を法面と植栽帯へと変えました。また、そこで発生した土は、道路から駐車場へ車が乗り入れられるようにするための盛土として再利用しています。
敷地の高低差や既存擁壁を、単に解消すべき問題として扱うのではなく、土を移動させ、地形そのものを整え直すことで、駐車場、アプローチ、庭、建築をひと続きの環境としてつくっています。
中心軸としての螺旋階段 — 動線が生む場の展開
L型の建物が折れ曲がる中心には、幅約3.6mの大きく緩やかな螺旋階段を設けました。
この階段は、単に上下階をつなぐためのものではありません。敷地の段差を取り込んだそれぞれの空間をつなぎ、家の中を巡るための中心となる場所です。
螺旋階段を上り下りしながら、高い位置から眺望を楽しむLDK、庭や駐車場へつながる場所、落ち着いたワークスペースや寝室、水回り、その上にあるロフトへと移動していきます。
少し歩くたびに床の高さが変わり、目線の高さが変わり、見える庭や風景も変わっていきます。
移動することそのものが、この家のさまざまな場所や風景を発見する体験になるように考えました。
延床面積は約24坪とコンパクトですが、スキップフロアによる上下方向の広がりと、窓の先へ続く庭や風景によって、実際の面積以上の広がりを感じられる住まいとなっています。
四分割された場の応答性 ➖ 北西(眺望テラスを持つ一段高いLDK)
北西側には、周囲より一段高い位置にLDKを配置しました。
西側には、最大約2.7m張り出したRC造のテラスが連続します。室内からテラスへ、さらにその先の風景へと床が伸びていくことで、LDKがそのまま外へ広がっていくような感覚をつくっています。
頭上には深い軒を設け、木の垂木をそのまま見せています。垂木の間隔や軒の深さを場所によって変えることで、歩くにつれて光の入り方や外の見え方が少しずつ変化します。
深い軒は夏の日差しを抑えながら、風景を切り取るフレームにもなります。
天気の良い日には、泉ヶ岳や蔵王まで続く山並みを望むことができます。テラスは単なるバルコニーではなく、食事をしたり、腰掛けたりしながら風景の中で過ごす「外のリビング」として、日常の居場所になります。
北東(植栽に囲まれた庭と駐車場)
北東側では、既存擁壁の撤去によって発生した土を利用して地形を整え、道路から車が乗り入れられる駐車場をつくりました。
駐車場の横には外部倉庫を設け、雨の日でもできるだけ濡れずに家へ入れるよう、庇や動線を計画しています。日々の使いやすさを確保しながら、駐車場も庭や建築から切り離された場所にならないように考えました。
撤去した擁壁の跡はコンクリートで固めるのではなく、法面として整え、赤松など、この地域の風景に馴染む植物を植えています。時間とともに植物が育つことで、道路から庭、そして建築へと緑が連続していきます。
建築には、現しの木の垂木や木製のファサード、RCの張り出し、木毛セメント板など、素材そのものの表情を感じられるものを組み合わせました。
室内から屋外へと続いていく垂木のラインや木の素材感が庭の植栽と重なることで、建築と庭が別々に存在するのではなく、ひとつの風景として感じられることを目指しています。
南東(落ち着いたワーク・プライベートゾーン)
南東側には、ワークスペース、玄関、寝室など、落ち着いて過ごすための場所をまとめました。
L型の建物配置によって道路や周囲から適度な距離を取り、プライバシーを確保しながら、庭とのつながりを持たせています。
ワークスペースには庭へ向かって大きく張り出す出窓を設けました。室内からは庭の緑を眺めることができ、外からは窓越しに家の中の気配がわずかに感じられます。閉じすぎることも、開きすぎることもない、庭とのほどよい距離感をつくっています。
子ども室は将来の使い方の変化を考え、約4mの高さを確保しました。また、廊下も単なる通路にせず、立ち止まったり腰掛けたりできる余裕を持たせています。
家の中に用途を決めすぎない場所を残すことで、家族の成長や暮らしの変化を受け入れられる住まいとしています。
南西(下層に水回り・上層にロフト)
南西側では、スキップフロアの下層に浴室や洗面などの水回りをコンパクトにまとめ、その上部をロフトとして利用しています。
限られた面積の中で上下の空間を重ねることで、平屋を基本としながらも、立体的に場所を使っています。
洗面や浴室からは直接外へ出られるようにし、その先には将来的に緑に囲まれたバスコートをつくることも想定しています。
完成時にすべてを決め切るのではなく、これからの暮らしに合わせて外部空間も少しずつ育てていける余白を残しています。
時間的な成熟 — 植栽と居住の熟成
この住宅では、建物が完成した時点を「完成」とは考えていません。
竣工したばかりの庭にはまだ小さかった木々も、年月とともに枝葉を広げ、建築の輪郭を少しずつ包み込んでいきます。木陰が生まれ、窓から見える景色が変わり、庭で過ごす場所も変化していきます。
敷地の多くを庭として残したのも、この時間の変化を住まいの一部として取り込みたいと考えたからです。
家族がこの家で暮らしていく時間と、植物が育っていく時間が重なりながら、庭と建築の関係も少しずつ変わっていく。
時間とともに建築が風景へ馴染み、住まいそのものがゆっくりと「完成」に近づいていくことを目指しました。
この住宅では、敷地の段差や既存擁壁、車が入れないことなど、当初は制約に見えた条件を、できるだけ建築の魅力へと変えることを考えました。
地形の段差はスキップフロアとなり、そこをつなぐ螺旋階段が家の中心になります。そして水平方向へ大きく伸びるL型の屋根が、それぞれの居場所と庭、その先に広がる丘陵地の風景をひとつにつないでいます。
螺旋階段を上り下りするたびに目線が変わり、庭の見え方が変わる。大屋根の下を歩けば、室内から軒下、テラス、庭、そして遠くの山並みへと風景が連続していく。
約24坪というコンパクトな平屋でありながら、建物の内側だけで空間を完結させず、庭や地形、遠くの景色までを暮らしの一部として取り込むことで、面積を超えた広がりをつくりました。
浮かぶように架かる大屋根と、その下を巡る螺旋階段。
その二つが日々の暮らしと風景を緩やかにつなぎ、庭の成長とともに、少しずつ丘陵地の景色へと溶け込んでいく住まいです。