Moisteane Salon Lupinus は、山形市内の幹線道路沿いに建つ、化粧品販売を併設した平屋のサロンです。
車からも目に入りやすい場所だからこそ、外観には多くの要素を加えず、建物そのものがひとつの「サイン」として見える、シンプルな佇まいを目指しました。
その足元には、店舗名の由来でもあるルピナスを植えています。季節になると花が建物の前を彩り、シンプルな外観に柔らかな表情を加えます。店の名前と建築、そして植栽がひとつにつながる風景を考えました。
外観はできるだけ静かに。一方、内部には奥行きのある豊かな空間をつくる。
建物の中へ入ると、細長い平面を生かした路地のような空間が続き、その先にサロンや個室が現れます。外からすべてを見せてしまうのではなく、奥へ進むにつれて少しずつ空間が展開していく構成です。
外は街に対する「サイン」として簡潔につくり、内側には光や曲面、さまざまな居場所を重ねる。その対比によって、小さな平屋の中に奥行きのあるサロンをつくりました。
開放と閉鎖の比率でつくる“膨らみ”
約20坪の店内は、大きく二つの場所に分けています。
西側には、接客や化粧品販売を行う開放的なサロン空間。東側には、お手入れのための個室や事務スペースなど、落ち着きやプライバシーが必要な場所をまとめました。
限られた面積を均等に細かく分けるのではなく、閉じる必要のある機能を東側に集めることで、西側のサロンにはできるだけ大きな余白を残しています。
さらに、その境界をまっすぐな壁ではなく、大きな円弧を描く曲面としました。
閉じた個室が内側へ入り込む一方で、サロン側の空間は外へ向かって膨らむように広がります。
実際の床面積以上に、ゆったりとした広がりを感じられるようにするための工夫です。
また、細長い建物の長さを生かして、入口から奥まで視線が抜けるようにしています。
「閉じる場所」をしっかりつくるからこそ、その隣に「開く場所」が生まれる。
閉じることと開くことを対立させるのではなく、そのバランスによって、小さなサロンの中に伸びやかな居場所をつくりました。
曲面、光、そして“皮膚感覚”
サロンを特徴づけているのが、店内を緩やかに横切る曲面です。
この曲面は、単に印象的な形をつくるためのものではありません。
まっすぐな壁で空間を切り分けるのではなく、緩やかに曲げることで、視線や人の動きを自然に奥へ導きます。同時に、身体を柔らかく包み込むような安心感をつくっています。
そこに、薄いレースのようなカーテンを重ねました。
完全に向こう側を隠してしまうのではなく、人の気配をわずかに感じながら、視線は柔らかく遮る。その曖昧な境界が、サロンに必要な開放感と落ち着きの両方をつくります。
さらに、カーテンの奥から間接照明を当てることで、光そのものも柔らかくしました。
光は直接目に入るのではなく、薄い布を通して広がり、曲面に沿って淡い明るさのグラデーションをつくります。
化粧品を扱い、肌を整える場所だからこそ、建築にも「肌に触れるような柔らかさ」を持たせたいと考えました。
曲面、カーテン、そしてその奥から広がる光。
それらを重ねることで、形を見るだけではなく、身体で柔らかさを感じられる空間を目指しました。
開口と庭、視線の抜け、利用体験の流れ
西側の壁に沿って設けたテーブルの足元には、細長いスリット状の窓があります。
窓の先には、玉砂利を敷いた小さな庭をつくりました。
大きな窓から外の景色をすべて見せるのではなく、座った時に足元から庭が少しだけ見えるようにしています。
限られた大きさの建物でも、視線が建物の外へ抜ける場所をつくることで、空間には広がりが生まれます。
内装は白を基調とし、タイルなどの清潔感のある素材を使いながら、木造平屋らしい木の温かさも残しました。
サロンだからといって緊張感のある空間にするのではなく、カフェに立ち寄るような感覚で、ゆっくりと過ごせる場所を目指しています。
また、この建物では、入口からサロンへ至るまでの体験も大切にしました。
道路から建物へ近づき、庇の下を通って中へ入る。少し路地のような細長い空間を進むと、曲面によって視線が導かれ、その先に明るいサロンが広がります。そして席に座ると、足元の小さな窓から庭へと視線が抜けます。
最初からすべての空間が見えるのではなく、歩くにつれて少しずつ次の場所が現れる。
閉じた場所と開いた場所、少し暗い場所と明るい場所、内側へ向かう視線と庭へ抜ける視線。
それらを短い動線の中に重ねることで、約20坪という小さな平屋の中にも、奥へ入っていく楽しさと、さまざまな居心地をつくりました。
ルピナスの花が足元で揺れ、その向こうにシンプルな平屋が建つ。
建物の中へ入ると、外観の静かな印象とは少し異なり、緩やかな曲面と薄いカーテン、その奥から広がる柔らかな光に包まれます。
肌に直接触れる化粧品を扱う場所だからこそ、建築もまた、人の身体に優しく寄り添うものでありたいと考えました。
外ではルピナスの花が季節の変化を伝え、内側では曲面と光が人を柔らかく包み込む。
Moisteane Salon Lupinus は、外から見た時のシンプルな佇まいと、内側に広がる柔らかな居心地を重ねることで、日常の中で少し気持ちを緩め、自分自身と向き合える小さなサロンを目指しました。