成西園

ビルディングタイプ
共同住宅・集合住宅・寮

DATA

CREDIT

  • 設計
    麻生征太郎建築設計
  • 担当者
    麻生征太郎
  • 施工
  • 構造設計
    我伊野構造設計室
  • 撮影
    阿野太一

東京都心部に建つ、中庭を持つ集合住宅。 「施主が求める事業性」と、「都市の自然と住む豊かさ」の両立を目指した計画である。 敷地は、車や人の往来が多い繁華街から少し距離をおいた、落ちついた住宅地の中にある。2〜3階建の戸建住宅、小中規模の共同住宅が周囲に建ち並んでいる。施主はここで広い庭を持つ木造2階建の日本家屋に住んでいたが、「土地の相続」という課題に対して、賃貸住戸を併用した住居をつくり、経営することで資産継承していくことを選択した。 庭には、大小様々な樹木が密集して生えており、外から敷地内が窺い知れないほどであった。それら樹木は、集合住宅の庭として機能させるには少し重く、少し暗く感じられた。建物の検討と同時に、造園家を交え、残す樹木、間引く樹木を選別し、新たに加える植栽のイメージについても検討を重ねた。 事業計画、市場調査から建設可能な床面積、適当な賃貸住戸面積・数を割り出すと、大きく庭を残せることがわかった。 一かたまりの住居と大きな庭。施主との対話の中で、庭を大きく残すことを決定し、それを実現する形を探った。 できあがった建築は、地下1階・地上3階建ての住居棟と、平屋の駐輪場棟、大小2つのRC造の建物からなる。これまで住んでいた木造住宅にならい、敷地西側から北側道路に沿って、鈍角に開いたL字状に住居棟を、東側に駐輪場棟を配置し、敷地中央に大きく庭を残した。 奥行き6000mmのL 字形状の平面をできるだけ単純に区切り、各住戸を計画していった。どの住戸にも庭側に向かって大きな開口部とバルコニーを持たせた。庭に大きなシマトネリコを4本、建物のすぐそば、触れられる距離に植えたことで、階数に関わらず、庭と住戸の距離がぐっと近づき、同時に住戸間の視線の交差を和らげた。 用途地域は第一種低層住居専用地域。東西に長いボリュームを北側に配置することは高さを取りたい場合(日影斜線上)不利になるが、ボリュームを地面に少し埋めることで必要な天井高さをを確保した。賃貸部分は同じ平面形状でも庭との関係に違いが生まれ、1階は窓辺に座ると土が触れられ、2階は樹木の葉に触れられ、3階は抜けのある空を見ることができる断面となった。 住居内部には木漏れ日が差し、風が抜け、窓前には緑が広がる。内外がつながる気持ちの良い空間となった。庭には草が生え、樹木は季節ごとの表情を見せる。鳥や虫が飛んでくると周囲の環境と一体となったような印象を受けた。 門から各住戸へは中庭を通るので、そこで住民同士が挨拶を交わすだろうし、ベンチを置けば、住民共有のもうひとつのリビングルームのようになるかもしれない。 事業収支や利回りを最優先しなかったことで得られた都市の中の自然。 その豊かさを存分に味わうことができる、集まって住む環境が実現できたのではないだろうか。