
木造平屋住宅の改修計画である。 施主は70代の夫婦。 40年前にこの住宅を建てたが、現在は別の住まいで暮らし、この場所は夫婦が営む、近所の子供達を対象としたピアノ教室、書道教室として使っている。 教室を続けながら、再びこの家で暮らすことを考え、部分的な間取りの変更、仕上げ・住設機器の一新を要望された。玄関から直接つながる西側の2室は、既存のまま書道教室として使い、東半分が今回の計画対象となった。躯体の状態が良かったこともあり、そこには手を入れず、間仕切り・仕上げの位置を調整することでプランをつくっていくことになった。 敷地周辺は住宅が建ち並んでいるが、都心ほど建て詰まっている訳ではなく、既存住宅が持つ開口部は、どの立面においても有効に機能しているように思われた。それら開口部からの光や風が、開口を持つ部屋だけでなく、隣り合う部屋、建物全体で感じられるように、部屋の出入り口や壁の位置を調整していった。 キッチンとリビングダイニングを隔てていた棚を撤去することで、暗くじめっとした空間をなくした。リビングと東側の2室をつないでいた廊下を収納へ変え、動線をより単純にした。人の出入りがありそうな玄関やLDKは屋根に合わせ勾配を取り、気積の大きな空間とした。LDKと一続きとなる奥の寝室は、日常的には一室となるような使い方が想定されたので、一間の開口を設け、戸袋を持つ引き分け戸で間仕切るようにした。 開口部については既存のままとし、玄関ドアと勝手口はフロストグラスの框戸にやり変えた。既存の型ガラス、施主が取り付けたレースのカーテンと合わせて内部に光を拡散させる。壁、天井は仕上げ色(塗装クロス下地の上にグレー塗装、木部はイエローラワンを染色)、ツヤに注意することで、光の反射を弱め、落ち着いた印象の室内空間をつくり出そうとしている。 既存の開口部を手掛かりに内部を再構成することで、広がりや光のグラデーションが生まれ、より良い住環境になったのではないかと思う。施主との対話の中で決定していった仕上げや細部の処理が、手持ちの家具を受け入れ、空間全体のイメージを統一している。