cafe634洗足池店

cafe634というカフェの移転リニューアル。店主は当事務所で設計・監理した《cafe634東銀座店》を5年ほど運営した後に収益物件としてテナント化し、住み慣れた大田区に東銀座店の間口と似たような奥行きのある店舗併用住宅を1棟借りして店舗移転を決意された。個人経営としての日常生活への負荷を減らしながら、高齢化する商店街の中で地域のカフェ、まちの食堂を目指すべく、再度設計をご依頼くださった。 物件は元々フルーツ店でオーナーは既に他県に移住していた。道に面する10坪弱の店舗部分のみを賃貸として提供していたが、上階の住宅部分は借り手も見つからず、オーナーにとってももったいない物件で、空間の状態としては空き家そのものに見えた。1階奥は薄暗いダイニングキッチン、2階は浴室・洗面所の水廻りをセンターコアとした東西(道路手前と奥)に分散された和室2部屋、3階にリビングと洋室という構成である。 1棟借りのメリットを最大限引き出すには用途変更届をする必要があったが、完了検査を受けていない(そもそも当時なかった)物件のため、費用対効果の検討から100㎡以下(3階は不使用)で計画することを提案し、計画内容についてビルオーナーへの説明と了承を経ながら進めた。構成は1階はまるごと飲食店に改修し、2階和室は関連するイベントスペースとし、様々な活動の受け皿として必要最低限の改修のみとした。2階の水廻りや和室の押入れは撤去し、浴室の床版の撤去で作った吹抜けを介して東西に分断されていた和室2室とカフェ空間を垂直方向につなげて薄暗さを払拭し、活動を立体的に展開させることを意図した。 ファサードについて。商店街を見渡した際、店構えが静的な印象が多く、歩行者に「涼」や「動き」を感じさせ、商店街そのものが生きている雰囲気を作りたいと思い、一見どこにでもありそうな暖簾を提案した。実際、商店街の祭りでは全体に提灯を飾り付けることもあり、とてもマッチしている。その他に既存シャッターを交換し、シャッターボックス懐を利用したアルミ製庇の新設。その庇に東銀座店でデザインした酸化し切った真鍮切文字をあしらった鋼製袖看板を別色(黒から白)に再塗装し移設。御影石張りの既存袖壁を片側だけ保存し、片側だけ吹き付け塗装するなど記憶の継承にも配慮し、商店街の時間軸を更新するようなバランス感覚を意識したデザインとなっている。 内装について。基本的に厨房の使い勝手や配置含め、要望を最大限汲みながら予算に応じて柔軟に仕様を変えるという方針で進めた。開放的な木製サッシや木天井、清潔感のある白塗装の壁やタフな使い方に耐えるRCの床のような新規マテリアル、そして東銀座店から利用していた一部厨房機器の移設や沖縄の家具工房で制作した可動テーブルのセット、照明作家による陶器製セードのペンダント照明の再利用は主な要望である。対して、2階に至るカーペットや階段室として仕切られていたボード壁が剥ぎ取られ再塗装されたシンプルな鉄骨階段、輪郭をぼかした白塗装のインテリアラーチで仕上げた和室床、将来DIY塗装も視野に入れた荒々しさを残したパテ仕上げや、以前を想起させる柱残しなどは1階で実現したいことにかけるコストに対して、抑制を意識した引き算のデザインとしている。結果として、1・2階の雰囲気はまるで違うが、新旧の構成要素が階調をもってつながるような、今後も段階的に成長できる余地を残すことに成功した、住宅スケールならではの等身大のカフェ空間となった。増える空き家に対しても効果的な活用事例である。

メンバー

クレジット

  • 設計
    FMA/前見建築計画一級建築士事務所
  • 担当者
    前見文徳
  • 施工
    山庄建設株式会社
  • 撮影
    武野綾香 / 前見文徳

データ