
DATA
- ビルディングタイプ
- アパレル・雑貨
- 延べ床面積
- 25㎡
- 竣工
- 2018-08
CREDIT
- 設計
- KOSAKU
- 担当者
- 松本光索
- 施工
- 松本光索、Upstone
- 撮影
- 表恒匡
港区白金にある元理髪店であった小さな店舗空間のリノベーション。 空間自体はアパレルショッ プのショールームとして年に数回使われることが決まっているだけで、 施主からの要望は全く何 もなかった。 それに加えて、既存空間は壁、天井が石膏ボード、床が長尺シート。この用途も特 徴もない空間に何かを見出すべく、現場に滞在しながら設計を進めた。 滞在して気づいたことは、目の前の道路は一見寂れた商店街の一部であるように感じるが、その 周辺に大きな企業ビルや大使館があることもあり、昼夜を問わず人通りが常にあること。しか し、 室内はどこか仄暗く、洞窟のような雰囲気を持った空間であるということだった。 完成後の 建築は、限られた人が利用する空間であることを考えると、現場で感じた閉じた空間の性質をポ ジティブに拡張し、洞窟のように自然で、用途のない、ただ空間がある状態を生み出せないかと いう思いに至った。 そのため、スイッチ、設備など機能上必要な要素を極力隠し、シンプルに壁、床、天井の素材の扱 い方によって、いかに空間の質を変えることができるかの設計を試みた。 空間正面の建具は、焼 杉の表面にエポキシ樹脂を塗装したもので、その黒光りした壁面には空間全体が大きな影となっ てぼんやりと反射する。より距離を縮めて建具を見れば、焼杉のゴツゴツした表面が奥に見え、 距離や時間によって素材の印象が変化する。また、それ以外の素材もその印象に多重性があるも のを選定、開発した。 既存建築のファサードは、中途半端に装飾レンガで覆われていたが、どこか独特の表情を持ち合 わせていた。なんとかこの装飾レンガをありのまま受け入れ、新しい建築の顔とすることができ るのではないかと考えた。そこで、装飾レンガの「装飾」という役割をずらし、新しい表層の下 地とすることで装飾に新しい役割を与えた。 結果的には、既存レンガの上にそれらと同サイズに カットしたフレキシブルボードを貼り付けた。フレキシブルボードは、その下地となったレンガの 凹凸を拾い、それぞれの表面が微妙に波打つ。 ボードの空目地からは元の装飾レンガが見え隠れし、半立体的な奥行き感を表層に与えている。装飾を規定の役割から解放し、そこに別の視点を 加えることで新たな表層の設計の可能性を追求した。 このリノベーションにあたり、昔、友人と造った秘密基地を思い出した。 自分たちだけが知ってい て、何も用途のない空間は、パブリックな空間とは違った楽しみや気づきを日常に与えてくれる ように思う。 今後、用途のない空間が予想外に展開されるのが楽しみだ。