
PROJECT MEMBER
大正8年開業、創業104年と永く愛されてきた公衆浴場『薬師温泉』 今や風呂なしの家はほとんどないだろう。 かつて必要に迫られた場所は、現代では価値を拡大する必要があった。 「愛され続ける公衆浴場をつくりたい」というお施主さんの想いに反し、既存建築は外部への開口がほとんどなく、大きく開くことが必要だと考えた。 我々は、隣地公園との連続性を意図して「公園の土でできたような塊」を挿入し、周辺に向けて開くジェスチャーとして「塊を大胆にくり抜いたような造形」とした。 その中央に「番台」という公衆浴場の象徴的なアイコンを内部と外部を横断するように据えた。 結果として ①外部→②低く抑えられた軒下→③内部土間→④一段上がった休憩スペース→⑤暖簾→⑥更に一段上がった脱衣所→⑦浴室 と限られたスペースの中に多様なシークエンスが生まれた。 空間がつながっていても、靴を脱ぎ一段上がることで、空間の性質が変化するのは元来日本建築に染み付いた身体的感覚である。 「靴を脱ぎ、服を脱ぎ、お湯に浸かる」という開放感の展開を、空間によって意図的に設定した。 飲み物を買う人、散歩途中に休憩する人、お風呂に入る人、ベンチで雑談する人。 老若男女が分け隔てなく交流する舞台になっている。 民間でありながら公共性にも寄与する「まちに開かれた新しい公衆浴場」を実現することができた。