昭和54年の架構

ビルディングタイプ
戸建住宅

補足資料

配置図
図面
平面図
図面
断面図
図面

DATA

CREDIT

  • 撮影
    八代写真事務所
  • 設計
    堤由匡建築設計工作室
  • 担当者
    堤由匡
  • 施工
    イクスワークス
  • 構造設計
    黒岩構造設計事ム所

夕陽の綺麗な福間海岸近くに、友人でもある施主が昭和54年竣工の古家付き土地を見つけてきた。この古家をショップ併用の民泊へとリノベーションできないかと相談されたのがプロジェクトの始まりである。 木造平屋の入母屋造り。プリント合板の外壁、ポリカ波板の庇など、チープなリフォームを施された跡はあったが、元々の構造がしっかり作られていることは一見してわかる。無節の桧の柱、立派な地松の太鼓梁、さらに長スパンの丸太桁は圧巻である。昭和54年は古民家と呼べるほどには古くなく、しかし、良い材料が安く手に入り、地方では庶民でも立派な木造が建てられた最後の時代であろう。自分なりの解釈で再構築こそすれ、腕の良い大工がプライドを持って建てた建築と対話し、その忘れられた良さを蘇らせることは、建築に携わる者の使命である。 ショップは道路側からのアクセス、民泊は元の玄関をそのまま縮小して計画し、動線と干渉する構造への影響のない柱は抜く。土間に落ちる柱は柱脚を差し替え、壁は構造用合板を適所に追加し必要な耐力壁を確保する。水平剛性は野地板下の母屋間をブレースで固定することで確保している。断熱について、土壁はすでに十分は断熱性能を保持していると判断して現状維持、新たに作る壁内、住宅部の屋根野地板裏はグラスウールで、床下は押出ポリスチレンフォームで補強している。 最初から天井はバラすことは考えていたが、平屋の入母屋は棟が高い。棟木下で約5.3mもある。道路側にショップ、庭側に民泊と計画すれば、必然的に棟木に並行に巨大な壁が出てくる。しかし5.3mもの壁で仕切るだけでは折角の架構が感じられず、何よりヒューマンスケールに欠ける。そこで民泊側の大壁2.1mから上を店舗側へセットバックさせてみる。民泊側には2.1m高さのキャットウォークが生じ、反対にショップ側には下がり天井が生じる。ショップは土間床で民泊の床よりも低いため、下がり天井は2.33mと適度な高さになる。民泊側のキャットウォーク上では柱が現しになり、ガラス瓦のトップライトから降り注いでくる外光により、架構が美しく浮かび上がる。 上記の手法を改めて振り返ってみると、かつては天井に隠されていた架構を現しにする一方で、かつては真壁として現しにされていた桧柱を大壁で隠すといった、ネガとポジを反転させるレトリックであった。隠してこそ美しいと考えられていたダイナミックな架構を開けっぴろげに見せてしまうのは、かつての大工さんからは破廉恥と怒られるかもしれない。しかし、貧弱な建築が幅を利かせるようになってしまった現代だからこそ、そのマッチョな裸体を大いに見せてほしいと我々は思ってしまうのだ。

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